年報 第6巻

3.共同研究成果報告(平成13年度、14年度実施分)


〔平成13、14年度:研究区分A〕

ガンマ線透過法による液体ゲルマニウムの密度測定

(新潟大学理学部)土屋良海
(宇宙開発事業団)内田美佐子・正木匡彦

1.研究の概要

 NASDAにおける宇宙空間微少重力環境下における基礎研究プロジェクトの一つとして「拡散現象研究のモデル化及び高精度拡散係数測定」が進行している。これは現在建設が進められているスペース・ラボの日本の分担分「きぼう」に実際に拡散係数測定装置を設置し高温液体の拡散係数を測定するプロジェクトである。(当初予定では2006年の実現を目指して国際コンペの厳しい審査をクリアしつつある)この分担研究として拡散係数の決定に欠かすことのできない基礎データである高温(1000℃以上)の融体の密度測定を行った。
 物体の密度は、原理的には、物体の体積と質量を直接測定すればすぐに求めることができる。しかしこの方法を高温融体に直接適用することは困難である。従って、アルキメデス法、ピクノ・メーター法、最大泡圧法等種々の高温融体の密度測定法が考案されているが、高温(1000℃以上)の融体の密度測定は容易ではなく信頼の置けるデータは少ない。本研究では、当研究室で多数の実績をあげているガンマ線吸収法よって液体ゲルマニウムと液体ゲルマニウム−錫(Ge-Sn)合金の密度測定を行った。
 ガンマ線吸収法は以下のような利点を持つ

  1. 溶融石英等に密封した試料を測定できるので、試料の酸化や成分元素の選択的な蒸発を最小に抑えることができる。
  2. プローブをサンプルに接触させる必要がないので、他の方法ではしばしば誤差の原因となる表面張力など表面による影響を考える必要がない。
  3. 比較的少量のサンプル(2cm3程度)で計測できる。
  4. 一旦セット・アップすれば自動計測が可能であり、熟練を要せずに比較的高精度のデータが取得できる。

 一方、ガンマ線計測を利用するため、計数に伴う統計精度によって精度の上限が決まる。従って、限られた時間に計測を行なうので測定精度を10−3以上に上げることは困難である。しかしこの精度は、非常に特殊な測定方法によるデータを除けば、他の方法で得られているデータの精度と比べて遜色のないものである。

2.成果の概要

 石英製の密封セルを使用してGe及びGe-Sn合金の密度を液相線より1200℃まで測定した。密度より求めた液体GeとSnのモル体積は温度の上昇によりほぼ直線的に増加する。本研究で得られたモル体積及び熱膨張率の値は、対応する温度領域での最近のアルキメデス法による結果と良く一致している。Ge-Sn合金では、混合モル体積は正でありほぼ50at.%で最大に達しその大きさは約0.24 (cm3/mol)であることがわかった。これらのデータはこのNASDAのプロジェクトで平行して研究が進められている、液体構造、圧縮率、拡散係数、第一原理分子動力学計算のインプット・パラメータとして使用されている。

3.まとめ

 現在測定温度領域を更に高温の1500℃まで拡張するための、高温炉とセルの開発を進めている。これによってSi(融点1414℃)及びGe-Snの密度の測定を目指している。

平成13年度、平成14年度)

成果報告書のTOP
年報 目次



〔平成13年度:研究区分A、14年度:研究区分B

人遺伝子発現解析

(新潟大学医歯学総合研究科附属腎研究施設)山本 格
(株式会社ジェー・ジー・エス)伊藤 哲

 1. 研究の概要

 人の臓器、組織で発現している遺伝子のライブラリーを作製し、ライブラリー中の遺伝子を分離し、その塩基配列を決定する。さらに、その遺伝子のバンク化して保存すると共に、それらの遺伝子に関する既知の情報を付与したデータベースを作製する。また、分離した遺伝子の正常および疾患臓器、組織の発現プロファイルを検索する技法を開発し、細胞特異的発現遺伝子、疾患相関発現遺伝子を探索する。

2. 成果の概要

 人の組織に発現している遺伝子のライブラリーを作製し、そのクローン約5,000を単離し、塩基配列を決定した。5,000クローンのうち、100 bp以上の大きさの遺伝子が挿入されていたクローンは約3,000クローンであった。これらのクローンの中で遺伝子が重複しているクローンの数を調べ、その臓器、組織のおおよその遺伝子発現プロファイルを得た。また、それらの遺伝子に関する情報を公的な遺伝子データベースから入手し、それらを付与したデータベースを作製した。現在、単離した遺伝子を用いて、それらの遺伝子発現をヒトの組織材料で検索する検査法の開発を進めている。

3. まとめ

 本研究はヒト組織で発現している遺伝子のプロファイルを調べて、疾患の病態を把握し、治療の標的分子を探索するための検査法の確立を目標としている。これまでに、そのための基盤研究はほぼ終了しているので、今後、実用化を目指した研究に移る。

成果報告書のTOP
年報 目次



〔平成13年度:研究区分A〕

砕石スラッジの有効利用に関する研究

(新潟大学工学部)長瀧重義・佐伯竜彦・久田 真
(電源開発株式会社)土田 茂

1. 研究の概要

 ダム建設現場においてコンクリート用砕石を製造する際にはスラッジが発生し、その大部分は濁水処理プラントで脱水ケーキという形で捕獲される。骨材製造プラントで発生する脱水ケーキは、平均粒径10μm程度の微粉が主体であるとともに、約20%の水分を含むこと、凝集剤や粘土鉱物などの不純物が混入することなどの理由により、有効利用先が限定されている。このため、脱水ケーキの大部分は建設汚泥として処理されているが、処理費用がかさみ、さらに環境面からも有効利用が求められている。
 そこで本共同研究では、砕石スラッジの有効利用を目的として、砕石スラッジを混入したコンクリートの諸特性を検討した。

2. 成果の概要

 砕石スラッジを混入したモルタルおよびコンクリートの諸特性を検討した結果、以下のことが明らかとなった。

2.1 凝集剤の影響

 凝集剤はモルタルの初期性状に及ぼす影響が大きく、特に粒子間の架橋吸着作用がある高分子凝集剤の影響が大きい。凝集剤濃度が大きい場合には強度への影響も懸念されるが、通常の濃度では顕著な強度低下は見られなかった。

2.2 砕石スラッジを混和したコンクリートの性状

 砕石スラッジの混和により単位水量の増加が見られた。これは微粉末及び凝集剤の混入によるペーストの粘性増加によるものと思われる。一方、砕石スラッジの混和量に因らずセメント水比と強度の関係は変化しないことから、セメント自体の水和を阻害していないと考えられる。

3. まとめ

 本研究の検討によって、砕石スラッジをコンクリートに混入して利用することが基本的には可能であることが確認できた。また今後の課題として、コンクリートの十分な品質管理を行うためには、砕石スラッジに由来する水分量を正確に把握する手法の開発が必須であること、更に、砕石スラッジ混入の影響をより明確にするためには、砕石スラッジの硬化体組織への影響を評価する必要があることが明らかとなった。

成果報告書のTOP
年報 目次



〔平成13年度:研究区分A〕

タキサン型多剤耐性癌克服剤リード化合物の検索と合成

(新潟大学工学部)安東政義
(神戸天然物化学株式会社)栗田壮太・賀井尚志

1. 研究の概要

 我々は、これまでの研究により文部省がん特定領域研究支援委員会「制癌剤スクリーニング」において多剤耐性克服活性(P-糖蛋白質阻害活性)を示す日本イチイ針葉ならびにその培養細胞(カルス)から単離した非タキソール型タキソイドを10種類以上見い出している。そこでさらなる活性タキソイドの日本イチイからの検索と、容易に得られる中間体タキソイドからの部分合成による活性との構造相関ならびに活性タキソイドの大量生産を検討した。そのため、日本イチイからの活性タキソイドの分離、活性の検討を進めるとともに、その培養細胞(カルス)からの培養条件の制御による生成タキソイドの増産方法の検討と活性タキソイドの検索を行った。また、イチイ針葉から容易に得られるタキシニンを出発原料として活性タキソイドへの大量合成を検討し、その過程で得られる種々の修飾タキソイドの制癌活性を調べ構造相関を行った。

2. 成果の概要

 日本イチイからの抗癌活性タキソイドの分離、活性の検討を進めると供に、その培養細胞(カルス)からの活性タキソイドの増産方法の検討と新規活性タキソイドの検索を行なった(現在、抗癌スクリーニング検定中)。また、イチイ針葉から容易に得られるタキシニンを出発原料として活性タキソイドへの大量合成を検討し、taxinine NN-1の大量合成のルートを確立することができた。さらにその変換過程で得られた種々の修飾タキソイドの制癌活性をスクリーニングに供している。

3. まとめ

 今回の検討により確立したカルスからの単離ならびに部分合成法による活性タキソイドの供給により、多剤耐性癌克服剤の開発に向けての高次活性試験の検討が可能となり、さらに種々の修飾タキソイドを合成することにより新規な制癌活性の検索、構造相関の検討が可能となった。



成果報告書のTOP
年報 目次



〔平成13年度:研究区分A〕

フライアッシュの物理化学的性質と
コンクリートの性能との関係についての研究

(新潟大学工学部)長瀧重義・佐伯竜彦・久田 真
(東京電力株式会社)河原忠弘

1. 研究の概要

 フライアッシュは、石炭火力発電所から大量に副産される産業廃棄物であり、コンクリート用材料として実用化されている。しかしながら、フレッシュ時、硬化後を含めて、コンクリートの物性に影響を及ぼすフライアッシュの品質に関してはいまだに不明確な点が多く、これを明らかにすることは工学上、きわめて重要である。以上のような観点から、本共同研究では、フレッシュ時ならびに硬化後のコンクリートの性能に影響を及ぼすフライアッシュの品質を明らかにすることを目的として、わが国で入手可能なフライアッシュを対象とし、コンクリートの性能を評価する各種の実験を行った。

2. 成果の概要
2.1 フレッシュ時のコンクリート性能に及ぼすフライアッシュの品質の影響に関する検討

 フライアッシュの品質のうちで物理的性質(比表面積、粒形)に着目し、フライアッシュペーストの流動性を評価した。この結果、レオロジー理論に基づくことにより、フライアッシュを混入したセメントペーストの流動性を精度よく評価可能であることが明らかとなった。また、コンクリートの流動性の評価の際に重要となるフライアッシュの品質パラメータは粉体の物理的性質であり、特に比表面積やフライアッシュの粒子形状であることが判明した。

2.2 フライアッシュを混和したセメントペーストの流動性低下に関する考察

 上記の検討を通じ、コンクリートのフレッシュ時の性能をより精度よく評価するためには、フライアッシュの物理的性質のみならず、化学的性質にも着目する必要があることが判明した。このため、液相中のフライアッシュからの各種イオンの溶出のような化学的な作用がフライアッシュペーストの流動性に及ぼす影響についての検討を行った。この結果、フレッシュコンクリート中におけるフライアッシュからは、各種のイオンが溶出しており、その程度はフライアッシュの品質やフレッシュコンクリート液相のpHなどに影響を受けることが明らかとなった。また、フライアッシュをイオン交換水ならびに水酸化カルシウム水溶液中に混合させ、その際の各種イオンの溶出挙動を把握することで、フライアッシュを混和したセメントペーストの流動性低下を予測し得る可能性が見出された。

3. まとめ

 本研究では、フライアッシュをコンクリート用混和材として有効に活用するために、フライアッシュの品質とコンクリートの性能の関係、特にコンクリートの流動性について検討した。その結果、フライアッシュの物理的性質および化学的性質から、フライアッシュを用いたコンクリートの性能をある程度予測できる手法を提案することができた。

成果報告書のTOP
年報 目次



〔平成13,14年度:研究区分A〕

マルチホップ無線通信技術を用いた移動体通信系に関する基礎研究

(新潟大学工学部)仙石正和・中野敬介
(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ)岡島一郎

1. 研究の概要

 マルチホップ無線通信とは、従来の移動通信系のように基地局を介さずとも移動端末同士が直接つながり、中継を行うことによりネットワークを構築するための技術である。利用分野としても、様々なものが考えられているが、本研究では、マルチホップ無線通信のセルラ方式への適用を考え、このようなネットワークにおける、回線割当に関する研究、信頼性に関する研究を行った。

2. 成果の概要

 セルラ方式を用いる場合、サービスエリア全域がセル(基地局)により被覆されることが前提となる。しかし、高層建築物同士の谷間や地下などには、基地局と通信できない領域、あるいは基地局との通信において良好な通話品質を確保できない領域が存在する。このような領域をデッドスポットと呼ぶ。マルチホップ無線通信を用いると、デッドスポットに存在する移動局と基地局を、他の移動局の中継によりつなぐことができ、デッドスポット問題が改善されると考えられる。
 本研究では、まず、マルチホップ無線通信を適用したセルラ方式における回線割当の性質について研究を行った。このような系においてデッドスポットに存在する移動局は基地局と直接通信することができないが、他の移動局を経由して基地局と通信を行うことが可能となる。基地局と直接通信を行う場合にチャネルは1つでよいが、1つの中継局を経由する場合には、2チャネルが必要となる。中継局数が増加すれば、必要なチャネル数は更に増加すると考えられる。ここでは、デッドスポットに存在する移動局が1つの中継局を経由して(2ホップ)通信を行うことができる場合の通信トラヒック特性を、シミュレーションに頼らず解析することを可能にした。また、ホップ数が多い場合の特性についてはシミュレーションにより評価し、ホップ数の上限を3ホップ以上にしても、通信トラヒック特性が改善されない場合があることを示した。
 次に、マルチホップ無線通信によるセル拡張の度合いについて研究を行った。セルがどの程度拡張されるのかを把握することは、系の信頼性を保障する上で重要である。ここでは、移動局の移動がセル拡張に及ぼす影響の度合いを考え、これらを評価するための指標を提案し、その評価指標により、セル拡張の度合いを推定するための手法を考案した。マルチホップ無線ネットワークにより移動局と基地局を接続する場合、中継を行う移動局の移動によりマルチホップ無線ネットワークがしばしば非連結になる。また、逆に、非連結であったマルチホップ無線ネットワークが移動局の移動により連結になることもある。つまり、基地局と移動局を結ぶマルチホップ無線ネットワークの状態が連結状態、非連結状態を交互に行き来することになる。非連結状態では、通信することが全くできなくなるので、非連結状態が長ければ、通信トラヒック特性が悪化することは容易に予想できる。ここでは、連結状態が継続する時間をセル拡張の度合いとして考え評価を行った。同時に非連結な状態が続く時間、2回目の連結時間も合わせて評価した。中継局が移動しない場合も含めて、いくつかの移動パターンを考え、ランダムな移動局の分布、移動の影響を考慮しながら、セル拡張の度合いを理論的に解析するための手法を提案した。理論計算できないような移動パターンに対しても、おおまかに推定するための手法を示した。これらの手法を用いて、セル拡張の度合いと移動の関係の特徴付けを行った。
 上記のような移動局の移動による連結度への影響以外に、移動局の中継能力に限界がある場合、この中継能力もマルチホップ無線ネットワークの連結度に影響を与える。例えば、各移動局が1つの移動局のためにだけ中継を行うことしかできないならば、複数の移動局が同時に基地局と通信するとき、これらの移動局と基地局を結ぶ経路に同じ移動局が含まれてはならない。移動局が中継を行う場合には、電力消費、中継のための負荷を軽減するために、中継を制限することは十分考えられるので、このような制約がついた場合に、デッドスポットに入った複数の移動局が基地局と連結である状態の長さを把握することは、システムの設計のためには重要であると考えられる。そこで、単純な移動パターンについてだけではあるが、この問題についても考え、連結状態の長さを算出するための手法を示した。

3. まとめ

 マルチホップ無線通信技術を適用したセルラ方式における回線割当、信頼性に注目し、これらの性能評価を行うための手法を提案し、いくつかのの基本的な性質を明らかにした。これらの成果は、ネットワーク制御手法の開発、ネットワークの設計に役立つと考えられる。

成果報告書のTOP
年報 目次


〔平成13年度:研究区分A〕

亜酸化窒素とダイオキシンの除去技術開発

(新潟大学工学部)清水忠明
(出光興産株式会社)藤原尚樹

1. 研究の概要

 流動層流動層燃焼装置で亜酸化窒素排出を低減するために活性アルミナ触媒粒子を流動媒体として数種類の石炭を燃焼し、従来の流動媒体である石英砂を用いた場合と窒素酸化物(NOx)および(N2O)排出を比べた。また、硫黄酸化物を炉内で捕集するために石灰石を炉内に供給し、それが窒素酸化物の生成消滅に及ぼす影響をみた。気泡流動層で廃棄物を燃焼する際のダイオキシンの排出を低減するために、同じく活性アルミナを流動媒体に用い、石英砂流動媒体の場合と比較した。

2. 成果の概要

 図1に活性アルミナ(MS)と石英砂(QS)を気泡流動層の流動媒体にそれぞれ用いた場合のNOxとN2Oの排出を示す。MSを用いた場合にはN2O排出は低くなった。NOx排出は変化しないか、あるいはMSの方が減少した。また、石灰石を供給すると通常ではNOx排出が増加するが、この窒NOxを増加させない脱硫方法を提案し、それが有効であることを小型燃焼装置で実証した。
 図2にはプラスチック燃焼時のダイオキシン前駆体である未燃炭化水素、あるいはダイオキシン生成の指標として用いられている一酸化炭素の排出を示す。その結果、流動媒体を従来の石英砂から活性アルミナに変えることで、未燃炭化水素、一酸化炭素ともに排出が減少した。この低減メカニズムを探ったところ、活性アルミナには高温でダイオキシン前駆体となる炭化水素類を吸着保持し、これの燃焼を均一ならびに安定化させて完全燃焼に近づけることができる作用があることが解った。

3. まとめ

 石炭の気泡流動層燃焼で流動媒体を変えることで、石炭燃焼時の亜酸化窒素排出を減少できた。また、炉内脱硫の問題点である窒素酸化物の増加を抑制できる脱硫方式を開発した。プラスチック燃焼時のダイオキシン生成前駆体および指標物質である一酸化炭素を低減できた。

 

1 流動媒体がNOxN2O排出に及ぼす影響の炭種依存性

2 流動媒体が一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)排出に及ぼす影響

成果報告書のTOPへ
年報 
目次


〔平成13年度:研究区分A〕

光学レンズの高精度位置決めの実用化研究

(新潟大学大学院自然科学研究科)新田 勇
(科学技術振興事業団)小俣公夫

1.研究の概要

 近年、レーザは観察及び加工の光源として広く利用されており、プロセススピードの向上および対象物の微細化に伴ってその走査光学系に対しては広視野・高解像度化が強く望まれている。それら光学系の性能劣化の原因において多大な割合を占めるのがレンズの偏心であり、広視野・高解像度化を達成するためには、複数枚の走査レンズの位置決めを高精度に行うことが重要である。シュリンクフィッタで接合されたfθレンズを用いたレーザスキャナは、各レンズの光軸が一致するので、広い走査幅にわたって微細にレーザビームを絞り込むことができる。さらに環境温度が変化してもその結像性能は変化しない。
 ここでシュリンクフィッタは2つの機械要素を締りばめにより接合するので、それぞれの接合面においては接触問題として扱われる。それらの接合面では表面粗さやうねりなどの表面性状によって、レンズの傾きや偏心が生じることが考えられる。さらにレンズ外周の締付け力によりレンズ球面が変形して光学性能に影響を及ぼすこともある。
 しかし従来は光学部品を締りばめすることはタブーとされており、締りばめによるレンズの偏心と傾き、および球面変形が光学性能に及ぼす影響を調べた例はない。そのためシュリンクフィッタ接合方法では、高精度なレンズ位置決めを目標とし、なおかつ従来のレンズの許容面精度(λ/2)から許容シメシロを設定している。したがって、シュリンクフィッタを必要以上に高精度で加工していることが考えられる。そこで本研究では、シュリンクフィッタの適切な加工精度を定量的に明らかにするために、各々のレンズの偏心と傾き、および球面変形が光学性能に及ぼす影響を数値解析により明らかにした。

2.成果の概要

 解析は光学解析ソフトウェア(CODEX)を用いて行った。今回はレンズL1〜L4がそれぞれ1枚ずつ、主走査方向(±Y方向)と非走査方向(±X方向)に10μmと50μm偏心した場合を解析した。各レンズが+Y方向に50μm偏心した場合の走査方向のスポット径の解析結果をみると、レンズによる差は、L4の偏心が最もビーム径を悪化させ、ついでL2とL3が同程度の悪化であった。L1の偏心ではビーム径がほとんど悪化しないことが分かった。また、L4では偏心した方向の走査端位置でのスポット径が悪くなり、L2とL3では反対側のスポット径が悪くなることが明らかになった。また、偏心量10μmではL4がY方向に偏心した場合のY方向スポット径が僅かに許容値を越えるだけで、他はほぼ影響が無かった。
 レンズの傾きについては、L2の傾きが最もビーム径を悪化させ、ついでL3の傾きによる悪化が大きかった。そしてL1とL4の傾きではビーム径がほとんど悪化しないことが分かった。また、L2は傾いた方向の反対側の走査端位置でのスポット径が悪くなり、L3は傾いた側のスポット径が悪くなることが明らかになった。また、偏心の場合と同様にどちらに傾いてもX方向のスポット径はあまり変化が無かった。
 レンズの球面変形については、はじめに締りばめによるレンズ球面の変形をFEM解析ソフト(MARC)を用いて求めた。求めた面形状に対して高次多項式近似を行いレンズ面データとしてCODEXに代入して光学解析を行った。シメシロを徐々に大きくして解析を繰り返し、ビーム径が12±5 mを超える直前の値を許容シメシロとした。また、ここで、L4とCY2の間は微調機構があるので、その間隔は変数として最適化を行った。締りばめによる面変形は従来の面精度であるλ/2を大きく越えて変形しても良いことが分かった。

3.まとめ

 本研究で用いた高精度走査用レンズに関して、以下のことが明らかになった。
  1. 各レンズが偏心した場合のビーム径への影響は、L4が最も大きく、走査方向に50μmの偏心で走査方向のスポット径が約35μmに悪化する。
  2. 各レンズが傾いた場合のビーム径への影響は、L2が最も大きく、走査方向に3傾いた場合に走査方向の反対側のスポット径が約34μmに悪化する。
  3. シュリンクフィッタを用いてレンズを締りばめ接合する際は、許容シメシロが最も小さいL2の場合であっても従来の許容面精度から求めたシメシロの約 25倍のシメシロで締付けることができる。

成果報告書のTOP
年報 目次


〔平成13年度:研究区分A〕

薬理活性を志向した生理活性有機化合物の合成研究

薬理活性を志向した生理活性有機化合物の合成研究
(新潟大学大学院自然科学研究科・*教育人間科学部・**理学部・***工学部)萩原久大・***鈴木敏夫・*荻野敏夫・*鎌田正喜・**長谷川英悦・***星 隆
(萬有製薬株式会社つくば研究所)奥山 彬

1. 研究の概要

 植物由来のテルペノイドは興味ある様々な生理活性を示す。これらは低分子量かつ安定な化合物である事、原料を自然界に求められる事などから、医薬品のリード化合物として期待されてきた。タキソールの例で判るように、特に高酸化型高次テルペノイドには顕著な生理活性を示す化合物が多数認められる。
 フォルスコリン1はインド産シソ科植物の根茎から単離されたラブダン型ジテルペノイドである。この化合物は細胞内情報伝達物質であるアデニレートシクラーゼを活性化する。生命活動に基本的な活性であるため、この化合物には広範な生理・薬理活性が認められている。特に、強力な血圧降下作用、強心作用で知られ、また抗癌剤としての作用も認められている。また、その類縁体である1,9-ジデオキシフォルスコリン2はラットの含脂肪細胞へのグルコースの取り込みを特異的に阻害する。そのため、グルコース異常蓄積に起因する疾病、特にアルツハイマー病、糖尿病、癌など成人病への効果が期待されている。この化合物の供給は現在自然界に依存している。化学合成による供給法も検討されているが、酸化度が高くまた立体的に混んでいるためか、成功していない。
 本研究は1,9-ジデオキシフォルスコリン2の新しい合成法の開発を目的とした。


2. 成果の概要

 西日本に広く分布するシダレゴヘイゴケには、乾燥重量1Kgに対し7gという大量のラブダン型ジテルペノイド、プチカンチン類が含まれている。これらはフォルスコリン1と類似した構造を持つため、フォルスコリン類の合成原料として期待が持たれた。
 主成分であるプチカンチンA3を加水分解後、6,7-ジオールのアセトナイド保護、つづいてLAH還元によりジオール4に導いた。11位アルコールの選択的酸化によりヒドロキシケトン5へ変換した。1位のヒドロキシル基は固相反応によるチオカルボニルイミダゾイル化をへて、ラジカル的に還元した。アセトナイドの脱保護つづく7位水酸基の選択的アセチル化により1,9-ジデオキシフォルスコリン2の化学合成にはじめて成功した。8段階、総収率37%であった。 

3. まとめ

 本研究により、1,9-ジデオキシフォルスコリン2の効率的な化学合成に成功した。他のプチカンチン類からも同様に変換可能である。また、1gあたり130万円と極めて高価なフォルスコリン1の合成の可能性も見出すことが出来た。本研究における各種合成中間体および1,9-ジデオキシフォルスコリン2の薬理活性に期待が持たれている。


成果報告書のTOP
年報 目次


〔平成13、14年度:研究区分A〕

縦型超高磁場磁気共鳴装置(V−3T)の研究応用

(新潟大学脳研究所)中田 力・藤井幸彦・松澤 等・鈴木清隆
(ジーイー横河メディカルシステム株式会社)塚本鉄二

1. 研究の概要

 縦型超高磁場磁気共鳴装置(V-3T)は、座位または立位でヒトの機能的磁気共鳴画像が取得できる、世界で唯一の装置である。このユニークな特長を用いることで、これまでの装置では不可能であった運動課題、または心理学的課題遂行時の機能画像が得られる可能性がある。しかし、一般的な磁気共鳴装置を用いた機能画像法に比べ、空間的な制約、体動の影響、磁場均一度の制約などがあり、本装置特有の最適化、機能の拡張などが必要になる。ここでは、機能画像取得に必要不可欠なソフトウエアの一種であるエコープレナーパルスシーケンスの改良、最適化について報告する。

2. 成果の概要

 エコープレナー法は、ヒト脳の複数の断面を100ms以下で撮像するためのパルスシーケンスである。このパルスシーケンスを繰り返して得られる連続した画像に統計処理を施すことによって機能画像を作成することができる。そのためエコープレナー法の画質が最終結果に大きな影響を及ぼす。
しかし、エコープレナー法では原理上対象物が折り返って偽像が発生しやすい。これはN/2-アーチファクトと呼ばれている。
今回、N/2-アーチファクトを低減するための補正方法を考案、作成しその効果を測定した。奇数番目と偶数番目の磁気共鳴信号の位相を位相エンコードせずに取得し補正データとした。補正は一次位相および位相オフセットについて適用した。また、断面毎に補正量を調整できるようにし、断面に一律の補正をする場合と断面毎に補正する場合を比較した。
その結果、補正なしと補正ありを比べると明らかに補正ありのほうがN/2-アーチファクトは低減していた。また、断面毎の補正は、一律補正より有意(p<0.001)にN/2-アーチファクトが小さく、平均で実信号の2%以下とすることができた。

3. まとめ

 今回開発した補正方法を用いることで、縦型超高磁場磁気共鳴装置による機能画像の信頼性が向上した。これにより座位と仰臥位など姿勢の違いによる、わずかな脳活動の差を画像化できるものと考えている。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

調理時の熱環境及び臭気環境からみた
セミオープンキッチンの快適性に関する研究

(新潟大学教育人間科学部)五十嵐由利子
(関西電力株式会社)永井廉子

1. 研究の概要

 近年の住宅には、調理時においても家族とのコミュニケーションがとれるセミオープンタイプやオープンタイプのキッチンが多くなる傾向にある。そこで本研究では、調理により発生する熱や臭気がキッチン内及びダイニングやリビングへどのように影響するかについての調査と実験を行った。
 アンケート調査は、電磁調理器(以下IH)使用者を対象とし、キッチンのプランタイプ、レンジの選択理由、キッチンの温熱感、臭気環境などを質問項目とした。
 実験は、IHとガスレンジを備えたセミオープンタイプのLDKの実験棟2棟(電気棟とガス棟)を使用しメニューと調理の流れを一定とした調理実験を行い、調理時の熱環境測定と調理者の温熱感、被験者によるダイニング・リビングでの臭気測定を行った。

2. 成果の概要

2.1 IH使用者の評価

 IHクッキングヒーターを使用している住宅のキッチンタイプはセミオープンタイプキッチンとオープンタイプキッチンを合わせて90%以上を占めていた。IHに替えてから油汚れが気にならなくなったとの回答が約73%、またリビングやダイニングの環境では空気が汚れにくいとの回答が約62%、油汚れが気にならないとの回答が約63%であった。
 臭気環境については、キッチンでは53%の人がガスレンジ使用時よりも臭気が残りにくいと回答しているが、キッチン以外で臭気を感じるという回答が55%で、半数以上の人が臭気を感じていた。ガスレンジよりは臭気が拡散しなくなったとはいえ、やはり臭気を感じている人が多いということはリビングやダイニングへの影響があると推察された。

2.2 調理実験による調理時の熱環境

 キッチン内の熱環境は電気棟よりガス棟の方で温度上昇が大きく、そのためガス棟での垂直温度差も次第に広がっていった。また、ダイニング・リビングの温度上昇はIH使用時が平均1〜2℃でガスレンジ使用時の半分程度であった。
 調理者の温熱感申告はガスレンジ使用時の場合、直接加熱しているため放射熱の影響でIH使用時よりも暑いと感じている人が多かった。また熱画像写真より、IHはレンジに近い手や、グルリ付近の腰部のみ温度が上昇していたが、ガスは調理者の身体全体の温度上昇が見られ、表面温度の上昇が大きかった。

2.3 調理実験による調理時の臭気環境

 電気棟の方が臭気を感じ始める時間は遅く、臭気を感じていた総時間の割合は電気棟がガス棟の半分以下であった。また、臭気の強度はガス棟の方で強く感じていることが分かった。
 このような臭気評価の違いを検討するため、煙による空気の流れの可視化実験を行った。電気棟でのレンジ付近の煙は換気扇に入っていく量が少なく、周囲に薄く広がっていたが、キッチンからダイニング・リビングへの煙の流入は、確認できなかった。一方、ガス棟での煙の可視化実験ではレンジ付近の煙の上昇速度は速く、煙が換気扇に多く流入していた。しかし、換気扇フードから煙が漏れ出し、次第に天井付近の上部に滞留し、その後ダイニング・リビングとの境界の上部をはうようにダイニング・リビング側に流れていた。このような煙の流れ方の相違はキッチンとダイニング・リビングとの温度差が関係し、このことが臭気環境にも影響すると推測された。

3. まとめ

 アンケート調査の結果から、IHに替えキッチンの温熱環境と空気環境がガスレンジ使用時より良くなったと評価している人が多かったが、臭気環境については、ダイニングやリビングへの影響があることが分かった。
 調理実験からは、IH使用時の方が調理の影響による温度上昇は小さく、キッチンとダイニング・リビングの温度差が小さいために空気が流れにくく、ダイニング・リビングでは臭気を感じにくいという傾向が把握できた。しかし、電気棟とガス棟の熱環境の初期条件をまったく同一にはできなかったため、定量的な結果を得るにいたらなかった。実験の環境条件をそろえるということが今後の課題であり、それによって今回の実験結果の検証が必要である。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

メガリン抑制による尿細管/間質障害の抑制効果の検討

(新潟大学医歯学総合研究科)斎藤亮彦
(日本たばこ産業株式会社)山本好久

1. 研究の概要

 メガリン(megalin)はLDL受容体ファミリーに属する巨大膜蛋白で、近位尿細管上皮細胞の管腔側に高発現し、様々な糸球体濾過蛋白をエンドサイトーシスによって再吸収した後、リソゾームに運搬して代謝を行う受容体である。すなわちメガリンは、腎における蛋白代謝機構において、中心的な役割を演ずる分子である。糸球体疾患に伴い、非生理量の血中蛋白が糸球体を濾過する場合、近位尿細管はそれを再吸収し代謝しようとするわけであるが、その過剰な代謝過程で様々な尿細管・間質障害が引き起こされ、ネフロン機能の低下につながる。そのような疾患の予後を規定するのは、糸球体障害の程度より、むしろ尿細管・間質障害の程度ではないかと考えられている。そこで、メガリンの機能を抑制することによる尿細管・間質障害の軽減効果を検討することを目的として本研究を行った。

2. 成果の概要

 メガリンのシャペロンであるreceptor associated protein (RAP)のノックアウトマウスでは、腎においてメガリンの発現が低下している。そのマウスを用いて、実験的糸球体腎炎を惹起し、蛋白尿を出現させ、腎障害の程度を、対照マウスと比較した。その結果、ノックアウトマウスでは、むしろ腎障害の程度が強まることが判明した。このことは、尿細管腔内での蛋白析出が亢進し、閉塞機転が働いたことに起因する可能性があると考えられた。

3. まとめ

 メガリン発現低下マウスでは、対照マウスに比較して、糸球体障害による蛋白尿の出現に伴って、腎障害の程度は強まった。少なくともこのモデルにおいては、メガリン発現抑制状態での腎障害軽減効果は認められなかった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

リポソームの腎炎治療効果に関する研究

(新潟大学医学部)河内 裕
(テルモ株式会社研究開発センター)木村順治

1. 研究の概要

 慢性糸球体腎炎は、腎不全に至る主要な原因疾患の一つであるが、その効果的な治療法は確立されていない。プレドニゾロンなどのステロイド剤は、腎炎の進行抑制の効果をもち、臨床で用いられているが、ステロイド剤は、易感染性やいわゆるムーンフェイスを引き起こすなどの重大な副作用が指摘されている。そのため、ステロイド療法実施には、慎重であるべきであり、またその投与量決定には、極めて慎重であるべきである。このような現状においてステロイド剤を効果的に腎、糸球体の炎症局所に集積させ、全身性の副作用を抑制し、腎炎抑制効果を高める薬剤投与法の確立は、極めて重要な研究テーマである。私達が開発した、抗Thy 1.1抗体1-22-3により誘導されるラット腎炎モデル(1-22-3モデル)は、炎症細胞浸潤、メサンギウム細胞増殖、メサンギウム基質の増加を引き起こすモデルで、ヒト増殖性糸球体腎炎のモデルとし広く利用されている。本研究では、DDSリポゾームの糸球体での発現効果、期間を検討し、プレドニゾロンをDDSリポゾームに内封した製剤の1-22-3モデルでの治療効果についての検討を行った。

2. 成果の概要

 DDSリポソームは、正常糸球体には、ほとんど集積しないのに対し、糸球体腎炎を起こしている糸球体では、3日から1週間にわたり集積することが確認された。薬剤をリポゾームに内封した製剤は、通常の製剤の使用量の1/10から1/20の使用量でメサン>ギウム細胞の増殖を抑制することを確認した。また、1-22-3モデルにおいてDDSリポソームは尿タンパク、メサンギウム基質の増加および腎機能低下に対して抑制作用を示した。これらの結果は、DDSリポゾームに内封させた薬剤投与が糸球体腎炎の進行抑制に有用であることを示している。

3. まとめ

 DDSリポゾームに内封した製剤は、腎糸球体炎症局所に効率よく集積し、通常の投与法に比べ、極めて少量の投与で、腎炎の進行抑制効果を持つことが確認された。本研究は、今後臨床応用に向け、貴重なデータを提供できると考えられる。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

ラット片腎摘出Thy-1腎炎モデルにおける
EP4アゴニストの有効性機序の検討

(新潟大学医学部)清水不二雄
(小野薬品工業株式会社福井総合研究所)片山輝昭

1. 研究の概要

 肩腎摘出ラットに抗Thy-1単クローン抗体1-22-3を静注して、慢性糸球体腎炎を惹起し、この腎炎ラットにプロスタグランジンEP4受容体選択的アゴニストONO-4819・CDを投与して、糸球体腎炎に対するONO-4819・CDの効果を検討した。
 雌性Wistarラット(6週令)をペントバルビタールにて麻酔し、左腎臓を摘出した。翌日MoAb1-22-3 0.5rを尾静脈より投与して糸球体腎炎を惹起した。D群にはONO-4819・CDをV群には溶媒を各々惹起日から連日投与し、惹起3、7、14、21、31、 41、56日目に採血、並びに代謝ケージを用いて24時間尿を採取し、血中クレアチニン、尿素窒素、アルブミン、総コレステロール濃度並びに尿中蛋白排泄量を測定した。惹起56日目にラットを屠殺して腎臓を摘出し、一部を固定した。必要に応じ、腎臓のパラフィン切片を作成し、PAS染色後、形態学的変化について光顕的に評価した。また、摘出腎を一部凍結し、免疫組織学的検索を行った。また摘出腎の一部より糸球体を単離し TNF-α、TGF-β等サイトカインのmRNA発現についても検討した。また別に抗体の代わりに生理的食塩水を静注した正常対照群(C群)をおいた。

2. 成果の概要

 平成12年度報告結果の追認が主な内容となっている。新潟大学が主として担当した検査項目の結果は以下のとおりであった。

2.1 免疫染色所見

 糸球体における collagen type I 並びに aSMA 所見は、full sized glomeruli 30個における染色の程度(広がり)を Johnson らのグループの方法で 1-4 に scoreを付けその平均値を個体値とし、検定をおこなった。D群ではV群に比し、有意に抑制されていた。ED1陽性細胞/糸球体並びにCD8陽性細胞/糸球体は、full sizedglomeruli 30個における陽性細胞数をカウントし、平均値を個体値とし、検定をおこなった。ED1陽性細胞については両群間で有意差は認められなかったが、CD8陽性細胞数はD群において有意に減少していた。
 間質におけるED1並びにCD8陽性細胞は、強拡大(X40)視野(=0.2o2)20個における陽性細胞数をカウントし、平均値を個体値とし、検定をおこなった。D群ではV群に比し有意に減少していた。

2.2 PCR所見

 TGF-βは、C群(片腎摘出のみのコントロール群)で最も著明な発現がありV群、D群の順で低下していた。cDNA合成からの処理を independent に2回おこなったが、同様の結果が得られた。
 TNF-αの発現は認められなかった。

3. まとめ

 以上、大学分担結果からの結論としては、ONO-4819・CDはラット片腎摘出Thy-1腎炎モデルの6週において collagen type I 並びにaSMA の糸球体内蓄積、並びにCD8陽性細胞の糸球体内浸潤と間質へのED-1, CD8陽性細胞の浸潤とを有意に抑制した。この抑制機序の解析にはTGF-β、TNF-α等のサイトカインの動態を含めて、より早期における種々の因子の動態に及ぼす影響検索が必要である。平成12年度に引き続き抑制効果が示されたことから、EP4アゴニストがメサンギウム増殖性糸球体腎炎の進展を抑制する可能性が再度示唆された。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

腎不全治療薬開発のための
メサンギウム増殖性糸球体腎炎モデルを用いた薬理学的研究

(新潟大学大学院医歯学総合研究科附属腎研究施設)清水不二雄
(藤沢薬品工業株式会社)濱田香理・曽我部肇・冨田雅之・中辻俊二・松尾正彦

1. 研究の概要

 慢性腎疾患の多くは進行性に腎機能が低下し、最終的には透析治療、腎移植が必要となる。近年、レニンーアンジオテンシン系阻害剤が慢性腎疾患患者の腎機能予後を改善することがいくつかの大規模臨床試験により証明されたが、その効果は部分的なものであり、未だ満足できるものではない。このように、有効な治療薬が少ないことの背景として、ヒトの病態を反映した優れた動物モデルが少ない点が挙げられる。最近、メサンギウム増殖性糸球体腎炎像を呈する片腎摘出抗 Thy-1 腎炎モデルが進行性腎炎モデルとして注目されているが、慢性腎不全モデルとしての妥当性については明らかではない。本共同研究は、新規慢性腎不全治療薬創出のために、片腎摘出抗Thy-1 腎炎モデルの慢性腎不全モデルとしての妥当性を明らかにすることを目的とし、その病態解析並びにレニンーアンジオテンシン系阻害剤の治療効果について検討を行った。
 実験方法として、雄性 Wistar 系ラットの左腎を摘出し、その 2 週間後に抗 Thy-1モノクローナル抗体 1-22-3 を 1 mg/rat の用量にて尾静脈より投与することによりメサンギウム増殖性糸球体腎炎モデルを作製した。実験 (1) では、このモデルの長期腎機能予後を明らかにすることを目的として、モデル作製後 47 週目まで経時的に採血及び 24 時間蓄尿を行い、尿中タンパク排泄量、血清クレアチニン濃度がモデル作製後 1 週の時点から倍増した個体の割合、腎不全による死亡率、腎機能低下速度(血清クレアチニン濃度の逆数を経時的にプロットし、直線回帰により求めたその傾き) について検討した。併せて、腎組織所見についても検討を加えた。実験 (2) では、このモデルの長期腎機能予後に対するアンジオテンシン変換酵素阻害剤であるカプトプリルの効果を明らかにすることを目的として、モデル作製後 1 週目より 24週目までカプトプリルを 30 mg/kg/day の用量にて 1 日 2 回連日経口投与し、尿中タンパク排泄量、血清クレアチニン濃度が投与前値から倍増した個体の割合、腎不全による死亡率、腎機能低下速度、糸球体及び尿細管・間質病変に対する作用を検討した。なお、本実験で用いたカプトプリルの用量は、尿中タンパク排泄量に対して最大抑制効果を示す用量として予備実験の結果から設定した。

2. 成果の概要
実験 (1)

 このモデルでは、尿中タンパク排泄量が高値を持続し、モデル作製後 12 週目以降経時的に増加した。血清クレアチニン濃度がモデル作製後 1 週の時点から倍増した個体は 12 週目から認められ、47 週目ではその割合は 90% に達した。腎不全による死亡は 17 週目から認められ、47 週目における死亡率は 63% であった。組織学的にも、高度な糸球体及び尿細管・間質病変が認められた。また、モデル作製後 8 週目までの総尿中タンパク排泄量と腎機能低下速度の間には強い相関関係が認められた。

実験 (2)

 このモデルにおいて、カプトプリルは全身血圧を低下させ、尿中タンパク排泄量を有意に減少させた。モデル作製後 24 週目において、カプトプリルは血清クレアチニン濃度が投与前値から倍増した個体の割合を、病態コントロール群の約 1/3 に低下させた。同様に、腎不全による死亡率を約 1/2 に低下させた。また、カプトプリルは、腎機能低下速度を有意に減少させ、組織学的にも、糸球体及び尿細管・間質病変を有意に抑制した。さらに、カプトプリルの腎機能予後改善効果は、その尿中タンパク排泄量減少効果と関連していた。

3.まとめ

以上の結果より、片腎摘出抗 Thy-1 腎炎モデルは進行性の経過を取り、最終的には末期腎不全に至るモデルであること、アンジオテンシン変換酵素阻害剤がこのモデルにおける長期腎機能予後を改善すること、さらに尿中タンパク排泄量がこのモデルにおける腎機能予後に対して大きな影響を与える因子であることが明らかになった。したがって、片腎摘出抗 Thy-1 腎炎モデルは、ヒト慢性腎不全と類似した病態を示したことから、慢性腎不全モデルとして妥当であると考えられた。

平成14年度)

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕〕

ヒト腎臓のプロテオーム解析に関する研究

(新潟大学大学院医歯学総合研究科附属腎研究施設)山本 格・吉田 豊・矢尾板永信
(日本電気株式会社)次田 晧・宮崎賢司・皆川宏貴・田伏 洋

1. 研究の概要

 末期慢性腎不全へ進行する腎疾患はその多数は原因が不明で、進行を阻止する有効な治療法も無い。本研究の目的は、腎臓で発現しているタンパク質の種類とその量を網羅的に調べることで腎臓の統合的機能を分子レベルで把握し、さらには腎疾患の病態の診断法や治療法の開発に資することにある。そのために、健常者や患者の腎組織の一部を調べ、疾患の有無を確認し、同時に組織から全RNA、全タンパク質を対象に、腎臓機能や病態と相関のあるものを抽出し、それらの同定を行う。特に、私どもはタンパク質同定専用にヒト腎臓のサンプル調製と解析データの整理を行い、日本電気滑礎研究所は連結不可能匿名化されたサンプル中にあるタンパク質を網羅的に同定する。尚、本研究は、新潟大学遺伝子倫理審査委員会で承認された「腎疾患の病態関連遺伝子の探索と、その診断法と治療法の開発に関する研究」の一部である。

2. 成果の概要

 初めに正常ヒト糸球体に発現しているタンパク質のプロテオーム解析を行い、その結果をデータベース化している。個人差(年齢、性別など)を考慮するとデータベース化のためには、多数のヒト糸球体サンプルが必要であり、精製・分離されたタンパク質(1サンプル当たり数千スポット)に関する膨大な画像データ解析やデータベース検索を高速で行う必要がある。そのために、二次元電気泳動画像解析技術(劣化画像修復、標準画像作成、画像比較)、PCクラスタを利用した高速データベース検索技術などが必要となる。日本電気滑礎研究所では、バイオIT事業の確立に向け、2001年4月にプロテオミクスセンター(ディレクター:次田晧博士)を開設し、このようなITによるプロテオーム解析の高速化(ハイスループット化)・自動化の技術の確立を進めている。
 今回の共同研究では、当講座の吉田豊講師らが正常ヒト糸球体より分離した約1000個のスポットの内、約450個のスポットのタンパク質の同定に成功し、そのデータベースを作成中である。今後は、更にタンパク質同定数を増し、正常ヒト糸球体のプロテオームデータベースを完成させる。また、将来的には、疾患サンプルのプロテオーム解析を行い、疾患関連タンパク質を選択し、薬剤標的分子を探索してゆく予定である。

3. まとめ

 本研究は正常ヒト腎糸球体に存在するタンパク質を網羅的に同定し、そのプロテオームデータベースを完成させ、それを利用して糸球体疾患の病態プロテオミクスを行い、治療の標的分子を探索することを目指している。

平成14年度)

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

燃焼装置における騒音と環境生成物の制御に関する研究

(新潟大学工学部)藤沢延行
(株式会社コロナ)時田義司

.1. 研究の概要

 家庭用給湯器にはガンバーナーがしばしば用いられる。この種のバーナーでは、使用燃料である灯油を微粒化することで燃焼を促進させるため、そのような燃料の粒径分布が燃焼騒音に及ぼす影響が大きいことが予期される。一般に、非燃焼時では、燃料の粒径分布は直接撮影等の方法等で計測可能であるが、実用上重要と考えられる燃焼時の燃料粒径の計測は困難であると考えられてきた。このため、燃焼時におけるガンバーナーの燃料粒径の計測はほとんど実施されていない。
 本研究では、燃焼時におけるガンバーナーの微粒化特性を光学的手法によって明らかにし、燃焼騒音の低減について考察することを目的とする。

2. 成果の概要

 実験は、家庭用給湯器に使用されるガンバーナーを用いて行なった。未燃液滴の計測には、干渉画像法を用いた。この計測法の原理は、燃料粒子にレーザー光を照射したとき、燃料粒子の粒径に比例した干渉縞が形成されることに基づいており、少なくとも数mm程度以上の粒子径の計測が高精度で可能である。
 Fig. 1は、本実験に用いた干渉画像法の実験装置である。ガンバーナーからの燃焼流に対しNd:YAGレーザーをシート状に照射し、斜め下方から高解像度CCDカメラで撮影した。ただし、カメラと被写体の間に凹凸のシリンドリカルレンズを挿入することで干渉縞を縦方向に圧縮し、空間分解能を減少させることなく多くの粒子径が計測できるようにした。Fig. 2は、干渉画像法によって可視化した粒子のディフォーカス画像の一例である。このような干渉画像の縞次数をコンピュータ処理することで、未燃液滴の粒子径を測定した。
 Fig. 3は、未燃液滴の粒子径分布の測定結果の一例である。比較的大きな未燃液滴が燃焼流の外側付近に分布していることが分かる。これは、小さな液滴は燃焼火炎中で即座に燃焼するが、大きな液滴は燃えずに液滴として存在することを示す。

3. まとめ

 ガンバーナー燃焼における未燃液滴の粒度分布と粒子径分布を干渉画像法によって計測し、比較的大きな未燃液滴が燃焼流外側付近に多く存在することを初めて明らかにした。


Fig. 1


Fig. 2


 Fig. 3 

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

透過光量を利用する食品生地検査装置における
センサユニットおよび信号処理に関する研究

(新潟大学工学部)岡田徳次
(株式会社アデマック)神田和也・大竹 進・長谷川淳一

1. 研究の概要

 食品には本来の成分以外の物質を混入させないことが強く求められ、万一混入する場合でも、完全に除去することが食品衛生上の見地から必須である。光は、非接触でしかも素材の内部を可視化し、各種の診断・検査に幅広く応用される。最近では透視イメージングへの応用が脚光をあび、多くの研究が行われている。とくに、光に対する透過度は、金属、非金属を問わず遮光性異物の検出に有効なことが明らかである。
 食品製造の最終工程においては、異物の有無の他、食品生地の枚数、面積(欠け)、厚さ(厚薄)、色(焼き、味付け)、形状(変形品)、包装状態(横ずれ、縦ずれ、製袋不良、噛み込み)、割れなどの検査が不可欠である。とくに、食品生地は、プラスチックフィルム、紙などによって包装されて製品になることが多い。このため、袋表面の光の反射は取り込む画質を下げる原因となり、画像処理の採用は必ずしも得策とはいえない。もし、その影響のない透過光に着目して食品の良否判別までをも可能にできれば好都合である。
 以上の動機から、平成 9年度から平成12年度において、透過光量を利用する食品生地内混入異物の検出法の基礎実験を行い、平成12年度にはCCDリニアセンサカメラを用いた装置の完成をみた。また、平成11年度から12年度まで、透過光量を利用する包装食品良否判別システムの研究開発を行い、装置化し実用化に至った。しかし、これらの異物検出装置および判別装置には、検出精度・計測精度・処理速度を向上させる重要な箇所としてセンサ部の性能に関わる信号処理回路があり、センサ部をファイバセンサ等に置換したり、ノイズに強い信号処理回路の設計は十分検討できていなかった。そこで、本年度は、検出精度・計測精度・処理速度を改善するため、CCDリニアセンサカメラを用いて実験を行いデータを収集・分析し、分解能と信頼性の高いセンサユニット・信号処理回路を製作することにした。

2. 成果の概要

 光透過度を利用する異物検出装置、および透過光量を利用する食品生地の重畳数・のべ面積計測に関する包装飾品良否判別装置の検出精度・計測精度、および処理速度を上げるため、センサユニットおよび信号処理アルゴリズムを検討した。具体的に、CCDリニアセンサカメラを用いてセンサ部をファイバセンサ等に置換するために有効なデータを収集した。また、使用する信号変化の範囲を拡大し、検出精度・計測精度を向上させ、かつ、信号をディジタル化し、論理処理によって回路を簡単化し、また、処理速度を高めた。その結果、光の透過量を計測することで遮光性を有する異物の検出を可能にした。また、生地周端部の透過光が乱れる原因を究明し、この乱れを防止するための照明手段として乳白色プラスチック製の逆四角錐台形フードを製作し、有効なことを実証した。さらに、透過光信号を閾値を用いていくつかのレベルに分類し、レベルの大小と持続時間に基づく、生地の重畳枚数判別と延べ面積の算出法を明らかにした。これらの応用として生産現場に流れる包装食品の良否判別の実験を行った。そこでは、枚数において、また、70[%]を下回る面積充足率の重畳パターンにおいて、100[%]の不良品判別率であることを実証した。

3. まとめ

 1つのコンベアを2分し、中間に照明部と線状の受光部を置き、受光部から得られる透過光束の時系列信号をコンベアの速度に関連づけることでコンベアに載って自由に流れてくる生地の透過影像を生成するセンサユニット、および信号処理回路を完成させた。これにより、カメラ撮像で問題となる反射光の影響をなくし、また、外観できない生地内部状況を透視して検査することを可能にした。生地の重なりに関する幾何学的形状も明確になることを実証した。さらに、透視像によって生地割れの判別が可能になり、異物の混入に限らず生地の状態も検査できることを明らかにした。ただし、隙間を作らないひび割れについては、判別は必ずしも容易でなく今後に検討すべき課題とした。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

毛髪電磁特性と毛髪の再現性

(新潟大学工学部)太田雅壽
(株式会社へイゼル・トンプソン)杉山保行・田口 修

1. 研究の概要

 毛髪の洗浄および補修に関する製品は多数市販されている。それらの市販品には、素晴らしい効能書がついているが、その効能に関する根拠の証明も極めて困難であるため、根拠は極めて希薄であっても、なかなか反論しにくい状況にある。そこで、これらの状況を打開するために、効能とリスクに関する基礎データを実験的手法により求めることを目的として、本研究では、美容師間で好評のシャンプー・トリートメントを用い、キューテイクルの再生状況を、走査型電子顕微鏡により検討した。

2. 成果の概要

 共同研究先の株式会社ヘイゼルトンプソンで仕様を作成し、美容師間で好評のシャンプー・トリートメント(薬剤A)および美容業界で多用されている類似品(薬剤B)を用いて、キューティクルの再生状況を比較した。また、比較として、目視的に損傷のほとんど無いと思われる健康毛と脱色経験のある損傷毛についても観察した。観察は、側面と毛髪をほぼ直角に切断した断面について行った。
 健康毛は、側面観察から、ほぼ均一なキューティクルでコルテックス(毛皮質)が覆われていた。また、断面観察では、ほぼ円形で、キューティクルがコルテックスに密着していることがわかった。さらに、メデュラ(毛髄質)が観察される毛もあった。他方、脱色経験のある損傷毛は、側面観察から、キューティクルがほとんど存在せず、その形も不揃いであることがわかった。また、断面観察では、円形の片方が押しつぶされた形、すなわち耳のような形をしているものが多かった。
 薬剤Aで処理された損傷毛は、側面観察から、処理前に存在したキューティクルと再生されたキューティクル状の皮膜でコルテックスが覆われていることがわかった。また、断面観察では、処理前に存在したキューティクルばかりでなく、再生したキューティクル状の皮膜もコルテックスに密着していた。他方、薬剤Bで処理された損傷毛は、側面観察から、処理前に存在したキューティクルと部分的に再生されたキューティクル状の皮膜でコルテックスが覆われている状態で、コルテックスあるいはその変成皮膜が露出していると推察される部分も存在していることがわかる。また、断面観察では、処理前に存在したキューティクルあるいは部分的に再生されたキューティクル状の皮膜とコルテックスとの間に隙間が存在し、それらの皮膜はコルテックスと密着していなかった。
 メデュラの観察された毛の断面について、電子線マイクロアナライザにより、元素分析を行なった。その結果、微量成分としてはメデュラには他の部位に比べカルシウムが著しく多く存在し、カリウムもわずかに存在することがわかった。また、メデュラ以外の部位は、窒素が均一に存在するのに対し、カルシウム、イオウ、塩素が不均一に分布していることがわかった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

高輝度蛍光体の開発

(新潟大学工学部・*大学院自然科学研究科)佐藤峰夫・*戸田健司
(根本特殊化学株式会社)前野起男

1. 研究の概要

 長残光蛍光体は、時計の文字盤、照明や警告灯などに用いられる材料であり、硫化亜鉛系の化合物が古くから知られている。従来の硫化亜鉛タイプの残光蛍光体は30分程度と残光時間が短いために、長時間の発光を必要とする用途に対しては、放射性物質を添加することにより継続的な発光を維持している。1993年に、根本特殊化学株式会社により開発された二価のEuと三価のDyを共付活したアルミン酸塩系の蛍光体SrAl2O4: Eu2+、Dy3+は、放射性物質を含むことなく蛍光灯などの照明による励起で高輝度の緑色の長残光を示すために注目されている。耐水性や紫外線に対する安定性を持ち、かつ励起光として太陽光における紫外線の有効利用が可能なより高輝度の長残光蛍光体を開発することができれば、長残光を用いた電気エネルギーを使わない夜間の照明、道路標識、建物内の非常灯、省エネディスプレイなどにも応用が期待され、社会に与えるインパクトは大きい。
 そこで、本研究ではフラックス成分であるB2O3の添加量および原料粉末の見直しにより長残光蛍光体の高輝度化を試みた。具体的には、安定なa相の酸化アルミニウムよりも低温で反応可能なAl(OH)3をアルミニウム源として用い、ストロンチウムアルミニウムホウ酸塩系の蛍光体を低温で合成することを試みた。

2. 成果の概要

 仕込み組成比 (Sr1-xEux) : Al : B = 2:2:2(x = 0.01)を1000℃で焼成した試料が、ブラックライトによる長波長(365 nm)の紫外線励起光をカットした後には、黄緑色の長残光を示した。この試料における結晶相の化合物のXRDピークはすべてSrAl2O4と一致した。この試料は非常に透明性の高いガラス(厚み1〜5 mm)であり、発光色そして残光色ともにSrAl2O4:Eu2+と同一の508 nmの黄緑色を示していた。減衰特性は、結晶性のSrAl2O4:Eu2+(x = 0.01)のものに匹敵する。写真に示すように、この残光ガラスは未研磨の状態でも背後の文字が読みとれるほど高い透明性を持つ。しかしながら、ガラス相の組成およびユーロピウムの含有量は現在のところ明らかではなく、今後も合成の最適条件を検討する必要がある。

3. まとめ

 アルミン酸塩系の長残光蛍光体の合成において添加されているB2O3を添加量制御することにより、長残光を示す結晶化ガラスを得ることに成功した。この残光ガラスは未研磨の状態でも高い透明性を持つことから、屋内の非常灯や補助照明のような幅広い用途が期待できる。

 

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

シフトバイワイヤに於けるシフト位置制御

(新潟大学工学部)横山 誠
(株式会社ユニシアジェックス)田中芳和

1. 研究の概要

 自動車における安全性向上や運転者の負担軽減などの目的で、電子制御化が活発に続けられている。自動変速機構は、現在、運転者がシフトノブを操作することによって"機械的に"制御しているが、これは運転者の負担、誤操作を招くことがある。そこで、本研究では、これをスイッチ操作によって(電気的信号によって−シフトバイワイヤ−)制御する装置の開発を目指した。本目的達成のためには、企業において開発されたハードウエアに、大学で培った先端的制御理論を用いた制御アルゴリズムを開発する必要があり、更に、その評価においても実車を用いなければならないため、共同研究に至った。また、本装置は、将来的にITS (Intelligent Transportation System)における完全自動運転装置への応用も可能と考えている。

2. 成果の概要

 本装置は、従来の変速装置においてシフトノブを除去し、替わりにDCサーボモーターと減速器を取り付けた構造になっている。DCモーターは制御器から指令される電圧値によって制御される。制御における問題点および設計仕様は以下のとおりである。
  • (1) 板ばねの有する非線形特性
  • (2) 軸受けボス部の遊び
  • (3) 負荷トルクの大きな変動(最大35 kgfcm)
  • (4) 環境温度(-35〜120℃)の変化によるモーター特性の変動
  • (5) 車載電源(バッテリー)電圧の変動と飽和(9〜12V)
  • (6) ヒステリシスのあるポテンショメーターのみ使用可能
  • (7) 位置決め精度:±0.8 [deg]
  • (8) 速応性:80 [msec]程度
 これらの問題、設計仕様に対して、スライディングモード制御と呼ばれる、一種のリレー制御の適用を試みた。特に、電源電圧の飽和による制御性能の劣化を回避するための、新しいのスライディングモード制御則則を考案し、実験および数値シミュレーションによってそれらの性能を比較検討した。また、位置センサー出力から、制御に必要となる速度情報を得るためのオブザーバーに関しても、種々検討した。その結果、スライディングモード制御と非線形オブザーバーの組み合わせによって、制御仕様を満足する高性能な電動スロットルを開発できた。

3. まとめ

 強い非線形特性を有するメカトロ装置に対して、非線形制御則を適用することで、高性能な制御システムが実現できた。これは、最先端非線形制御則の実機での数少ない成功例の一つと考える。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

薬理活性を志向した生理活性有機化合物の合成研究

(新潟大学工学部)安東政義
(萬有製薬株式会社)奥山 彬

1. 研究の概要

 天然、非天然有機化合物を含む多種多様な有機化合物を合成し、生理活性評価に高い能力と設備を持つ民間共同研究機関と協力し、そこから得られた有機化合物の機能情報をもとに、医薬品開発に結びつくリード化合物の探索、設計、創製を行ない、高機能高付加価値を持つ新しい医薬品の創出を行なうことを目的とする。

2. 成果の概要

 日本イチイならびにその培養細胞(カルス)からの新規抗癌活性タキソイドや中国雲南省産の生薬からの新規抗癌活性化合物など天然由来の生理活性物質の検索を進め、その活性評価に基ずく化学合成や生物化学的変換反応により、幾つかの活性タキソイドの大量生産法を確立した他、新規な生理活性が期待される天然物や合成修飾化合物を得ることができた。

3. まとめ

 今回の検討で得られた修飾タキソイドや、新規天然及び非天然合成化合物の生理活性の評価とその結果をフィードバックした合成戦略により、多剤耐性癌克服剤や新規免疫賦活、阻害剤の開発に資する。

 

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

画像処理応用による食品への混入異物の検出

(新潟大学工学部)大矢 誠
(株式会社末広製菓)阿部雪枝

1. 研究の概要

 食品製造業における加工・出荷ラインでは混入異物の検査が必須であるが、この煩 雑な作業を人間の目視検査によっているのが現状である。また、作業者は他の作業を行いながら目視検査を同時に行っている場合がほとんどであり、その頻度は低いなが らも見落としによる不良品の発生が懸念される。そこで、混入異物の検出工程を自動化することを目的として、特に毛髪を対象とした画像処理による検出手法の検討を行い、実際のライン上で取得した画像を用いて手法の有効性の検証を行った。

2. 成果の概要

 主な検出対象である毛髪の特徴を、「黒い(周囲よりも暗い)」、「ほぼ一定幅の細い線」、「滑らかで連続した線」として定義し、画像上でこの特徴を持つ領域を検出するための画像処理手法について検討した。そのために、前記条件を持つ線領域を検出するための線検出フィルタを新たに開発した。これによって、毛髪を含む検出対象候補をほぼ過不足なく抽出することができるようにした。また、いくつかの前処理を併用することによって検査対象領域を限定し、実時間での検査が可能となるようにした。
 画像処理においては検出対象を明確に画像上に記録することが重要である。そこで、効果的な検出を実現するための最適撮影条件を実験的に決定した。すなわち、外乱光の制御と最適な照明の工夫、対象物に対するカメラと光源の位置関係の調整、および、一画像あたりの撮影面積の最適化を図った。また、ライン上を移動する撮影対象を正確に記録するためにトリガー方式を用い、インターレース補正を行って対象の移動に伴う画像の劣化を抑え、毛髪検出のための画像処理に耐える画像の取得を可能とした。
 実際の加工ライン上で画像を取得し、検出精度について検討を行った。このときには、種々の毛髪を故意に混入させた検査対象を用意しておき、良品とともにラインに 流して撮影した画像に対して処理を行った。その結果、混入した毛髪についてはほぼ全数を検出可能であった。ただし、背景の状況によっては画像処理による検出が不可能であることも確認された。これに関しては、画像による検査対象領域をあらかじめ限定することで対応するしかないものと思われる。また、画像枚数の数%では、異物以外を誤検出する場合があることが判った。したがって、異物の定義に色情報や線形状の情報などを加えて多様化し、より多くの判断基準を設ける必要があるものと考えている。

3. まとめ

 目視検査の代替として画像処理応用による異物検出について検討し、一定の成果が得られた。現状では、特定の背景における検出不能と、異物以外を誤検出する問題が残るが、処理手法の改良および画像の精細化と多階調化などにより検出の高精度化が可能ではないかと考えている。また、同様の手法を拡張することによって、透明な液体容器など他分野への適用の可能性もあることがわかった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

アドホックネットワークの利用形態と構成

(新潟大学工学部)間瀬憲一
(株式会社エイ・ティ・アール環境適応通信研究所)蓮池和夫

1. 研究の概要

 21世紀の社会において快適な移動通信へのニーズはますます多様化・高度化すると予想される。このような課題に対応する一つのアプローチとして、従来の移動通信ネットワークとは根本的に異なるモバイルアドホックネットワークあるいはマルチホップ無線ネットワークと呼ばれるコンセプトの利用が考えられる。アドホックネットワークとは、基地局や有線網に依存せず、移動端末を構成要素とする自律分散形のネットワークであり、従来のネットワークが対応できない新たなコミュニケーション環境の実現手段として、大きな潜在的可能性を有し、今後の急速な発展が期待できる分野である。
 本研究では、そのようなアドホックネットワークの利用形態と構成に関して研究を行う。

2. 成果の概要
2.1 アドホックネットワークにおける効率的なフラッディング方式

 オープンコミュニティネットワークのように、情報共有を図る方式では、情報のブロードキャスト、マルチキャストが必要になる。そこで、アドホックネットワークにおいて、効率的にパケットを配信する方式について検討した。ネットワーク全体にパケットを配信するとき、配信方式の1つにフラッディングが考えられる。従来のフラッディングでは、各端末が受信した新パケットの再転送(ブロードキャスト)を繰り返すため、ネットワーク内のトラヒック増加が問題となる。無駄なトラヒックを削減し、効率的にパケットを配信する方式として、クラスタリングを用いる方式、MPR(Multipoint Relaying)などが検討されている。これらの方式では、各端末による制御パケットの配信が必須である。そのため、制御の複雑化、トラヒック増加が問題となる。そこで、制御パケットを用いずに、効率的にパケットを配信する方式を提案した。具体的には、各端末が周囲の端末から受け取る重複パケットを観測し、自端末におけるパケット転送の必要性を自律的に判定するものであり、重複パケットチェック方式と確率判定方式がある。シミュレーションによりパケット配信時間、配信率、転送効率等の評価を行った。特に、重複パケットチェック方式において、トラヒック削減による大幅な性能向上が期待できることを確認した。

2.2 バックボーンにアドホックネットワークを適用した無線LAN

 標準化の進展、価格の低下等により、無線LANの普及が著しく、無線LANを利用したホットスポットサービスが注目されている。無線LANを拡張するには複数のアクセスポイント(AP)を設置し、AP間を有線または無線により、接続することが必要である。無線LANを必要な場所に迅速に低コストで配備するためには、ケーブル設置等の必要がない無線の利用が適している。さらに、APの配置や設定に関する自由度を向上させるため、AP間の通信をアドホックネットワークによりサポートする形態が考えられる。
 本研究では、このような無線LANの構想を無線マルチホップLAN(WMLAN)と呼び、セルラー型の移動通信網、通常の無線LAN, 従来のアドホックネットワークと対比させて特徴を明らかにした。WMLANのアーキテクチャとして、LANエミュレーションとIP-IPカプセル化のふたつの方式について具体化し、特徴を明らかにした。前者は端末のローミングを無線LANで吸収する形態であり、後者はモバイルIPを利用する形態である。さらに、WMLANバックボーンネットワークの実験網を構築し、マルチホップ通信におけるTCPの性能評価を行い、問題点、対策等を示した。

3. まとめ

 本研究は、コンピュータが部品化し、環境に分布・移動する近未来の通信環境構成手段である無線アドホックネットワークの利用形態、構成方法、情報転送の性能改善及び次世代インターネットの構成に示唆を与えるものである。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

高分子多層薄膜材の動力学的(衝撃エネルギーの分散、吸収)特性評価

(新潟大学工学部)田邊裕治
(関西ペイント株式会社)岸原雅人・中井 昇

1. 研究の概要

 身の回りの生活用品から工業製品まで種々の高分子材料が便利に、たくさん使われている。具体的な高分子材料には、接着剤、塗料、樹脂、衣類、包装用品、テープ類などから建築材料、電気材料、医療材料に至るまであり、その応用範囲は大変広く、現代社会においては不可欠な材料になっている。このような便利な材料の高機能化と環境に配慮したものつくりの重要性が年々高まっている(1)。高分子材料の一つの応用例として、金属表面に薄く塗布して異物の衝突等による損傷を最小限に抑えることが考えられる。すなわち、金属表面の改質技術への応用が考えられる。しかし、このような高分子薄膜の動的応答を調べた研究は数値解析も含めてきわめて少なく、特に複層の高分子薄膜の動的応答について調べた研究はほとんどない。そこで本研究では、鋼板上に塗布した多層の高分子薄膜についてホプキンソン棒法衝撃圧縮試験を行った場合を想定して、FEMにより動的応力解析を行った。そして、層の構成による動的応力の相違を調べるとともに、これまでに観察された高分子薄膜の損傷と動的応力との関係について検討した。

2. 成果の概要

 鋼板上に複層の高分子薄膜を塗布した2種類(a系、b系)の試料を対象として解析を行った。a系はA、B、C、Dの4層から構成され、b系はa系のC層、D層の層間にE層が加えてある。各層の厚さは約20 mmであり、弾性定数は、概ねD層が一番大きくD層からA層に向かって漸減させた。また密度rについては、(1.33±0.44)×103kg/m3の間の適当な値に選んだ。FEM解析には陽解法有限要素解析コードLS-DYNAを用いた。荷重条件はホプキンソン棒法衝撃圧縮試験を行った場合を想定して設定した。解析は軸対象問題とし、試料は半径2.5 mm、高さ1.0 mmの円柱形でポアソン比がn = 0.3の均質等方性弾性体と仮定してモデル化した。試料の最小要素寸法は10×7 mm2であり、節点数および要素数はa系、b系ともに各々約7000である。また、摩擦係数は0とした。
 全体的な傾向としてはa系、b系ともにD層とSteel層の層間に応力が集中していることがわかった。これはSteel層が他の層と比べて音響インピーダンス(Eとrの積)が大きいことに起因すると考えられた。各層界面に生じる応力szzの最大値を調べたところ、a系、b系ともに試料端で最も大きい応力を示していることがわかった。試料端においてa系では、表層部に比べC/D層間、D/Steel層間でszzの最大値が増大していることがわかった。一方、b系では、C/E層間、E/D層間でszzの最大値が多少の増加は見られるが、表層部から最深部までほとんど一定であることがわかった。以上の結果は、別に行った実験で観測されたD/Steel層間(a系)およびE/D層間(b系)の付着性劣化と良く対応していた。

3. まとめ

 複層の高分子薄膜が衝撃的外力を受ける場合の動的応答をFEM解析した。2種類の薄膜(a系とb系)に対してホプキンソン棒法衝撃圧縮試験を行った場合を想定し、解析を行った。その結果、薄膜試料端から中心へと付着性の劣化部位が拡大し、a系ではD/Steel層間、b系ではC/E層間の付着性が劣化すると予測され、実験結果とも良く対応していた。

平成13年度、平成14年度)

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

表面処理金属酸化物の表面化学

(新潟大学工学部)坪川紀夫
(日本アエロジル株式会社)室田正道

1. 研究の概要

 シリカナノ粒子表面の改質法の一つとして、粒子表面へのポリマーのグラフト反応が注目されている。粒子表面へポリマーをグラフトすると、有機溶媒中への分散性が著しく向上するばかりでなく、粒子表面へ多彩な機能を付与することができる。
 最近、我々はシリカナノ粒子表面へ導入したアミノ基から多分岐のポリアミドアミンがグラフトできることを見出した。この様な多分岐のポリマーをグラフトしたシリカはグラフト鎖末端に多くの官能基を持つので、粒子表面への多彩な機能性官能基の導入が可能である。
 ところで、これまでシリカナノ粒子表面へのグラフト反応は各種の有機溶媒を用いる液相系で行われてきたが、この様な系では、反応系からシリカナノ粒子を単離精製するために遠心分離やろ過などといった複雑な操作が必要となり、ポリマーグラフト化ナノ粒子の大量合成は困難であった。
 そこで、本研究では溶媒を用いない乾式系における多分岐ポリマーグラフト化シリカナノ粒子の大量合成について検討した。

2. 成果の概要

 本実験に用いたシリカは、日本アエロジル叶サのAerosil 200(平均粒子径、16 nm)であり、真空乾燥してから使用した。シリカ表面へのアミノ基の導入は、シリカをトルエン溶媒g -アミノプロピルトリメトキシシランで処理することにより行った。
 シリカナノ粒子表面への多分岐ポリアミドアミンのグラフト化は、攪拌機、温度計、および冷却器を取り付けた500 mlの四口フラスコにアミノ基を導入したシリカナノ粒子を加え、アルゴンで反応容器を置換した。ついで、シリカ表面のアミノ基に対して少過剰のアクリル酸メチル(MA)をフラスコ中のシリカにかき混ぜながら噴霧し、50℃で反応させた。ついで、未反応のMAを真空下で除去した後、所定量のエチレンジアミンを噴霧し、50℃で反応させ、反応後未反応のEDAを真空下で除去した。この操作を繰り返すことにより、シリカナノ粒子表面から多分岐ポリアミドアミンを生長させた。
 その結果、未処理のシリカでは、上記の反応を繰り返しても、質量増加、および表 面アミノ基の増加は全く認められなかった。これに対して、アミノ基を導入したシリカナノ粒子に対して、MAのマイケル付加反応とEDAによるアミド化反応を繰り返した系では、世代数の増加と共にグラフト率、および表面アミノ基量は増加し、8世代で、グラフト率が141.0%、アミノ基量が3.6 mmol/gにも達することが分かった。
 しかしながら、グラフト率、および表面アミノ基量とも、理想的にポリアミドアミンが生長したときの理論値と比較して非常に小さかった。これは、反応が不均一系で進行することと、隣接のグラフト鎖同士の立体障害のためと考察した。
 さらに、シリカナノ粒子表面へ多分岐ポリアミドアミンをグラフトするとメタノールなどの有機溶媒中へ極めて安定に分散することや、粒子表面の吸湿性が著しく増大することも明らかにした。

3. まとめ

 本研究により、溶媒を用いない乾式系で、多分岐のポリアミドグラフトシリカナノ粒子の大量合成法が確立できた。この様な、多分岐のポリアミドグラフトシリカナノ粒子はグラフト鎖末端に多くのアミノ基を持つので、各種の触媒の固定化やエポキシ樹脂の硬化剤として利用できる可能性を持っている。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

二重葺き工法屋根の熱特性評価

(新潟大学工学部)小林睦夫・松原幸治
(株式会社サカタ製作所)神田 隆・渡辺友則

1. 研究の概要

 屋根の断熱特性の向上によって、室内の空調負荷が低減でき、より少ないエネルギーで快適な室内環境が得られる。本研究では,通常工法屋根からの移行が容易であり、高い断熱特性が達成できるとされている二重葺き工法屋根に注目し、実際に環境熱負荷を受ける条件で屋根の熱貫流率を測定し、またシミュレーションによって空調負荷の低減率などを算出する。それにより、二重葺き工法屋根を用いた場合の効果を、定量的に実証することを目的とする。

2. 成果の概要
2.1 熱貫流率の測定

 平成13年夏季〜平成14年度夏季の約1年間にわたって、新潟大学工学部屋上に二重葺き工法屋根を取り付けた試験用筐体を設営し、内部気温、屋根温度等を実測した。得られた実験データに対して非定常数値解析を用いることで、二重葺き屋根の熱貫流率を算出した。
  • (a) 二重葺き屋根内部を空気のみとした場合
  • (b) ボール紙を挿入した場合
  • (c) 断熱材を充填した場合

の3通りについて実験を行った。比較のため、同じ環境において通常工法屋根の測定および熱貫流率評価も行った。なお、実験は、筐体内部に発熱体を置かない非定常法と内部に発熱体を置いた定常方の二通りで行った。
 非定常法の結果によると、屋根の二重化による熱貫流率の低減効果は、(a)で約30パーセント、(b)で50パーセント、(c)で約80パーセントであった。すなわち、二重葺き工法屋根内部を十分に断熱することで、熱貫流率の低減効果が顕著に現れることが確認できた。なお、定常法においても同様の結果が得られることを確認した。

2.2 空調負荷の解析

 比較的小さな筐体(幅2 mx奥行1.4 mx高さ1.8 m)および比較的大きな筐体(幅20 mx奥行20 mx高さ6 m)を対象として、通常工法屋根および二重葺き屋根を設置した場合について、空調負荷の解析を行った。日射による入熱、強制対流による冷却を考慮し、壁と内部空気を分割して取り扱うコントロールボリューム法を適用した。内部温度は27度に設定し、この温度を維持できるように冷房が運転する場合を想定した。夏季の暑い日(最高気温34度)を想定し、簡単のため筐体には窓がないものとした。それによると、二重葺き屋根を設置することによる冷却量の低減率は、小型筐体の場合に約31パーセント、大型筐体の場合に約23パーセントであった。

3. まとめ

 二重葺き屋根の断熱特性を実験的に検証し、二重葺き屋根を用いた場合の空調負荷を数値解析によって算出した.これらにより、二重葺き屋根によって夏季の空調負荷が20〜30パーセント程度低減できることが示された。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

過電流保護機能を持つ高性能小型直流リレーの実用化研究

(新潟大学工学部)板垣厚一
(大東通信機株式会社)高田雅巳

1. 研究の概要

 リレーは、遠隔操作により接点の開閉操作が可能であるが、ブレーカのような過電流保護機能を持っていない。本研究は、過電流保護機能を持つ小型直流リレーの実用化を目的にしている。
 一般に、直流電流の遮断は、電流零点がないので交流の場合よりは困難である。そのため、直流アークの遮断には、アークの冷却を促進するために、接点距離を増加させたり、アーク消弧室などを付加する必要があるので、直流の開閉器類は、交流の場合よりは大型になる。このことを避けるために、リレーの主接点と直列に転流回路を接続して、遮断電流を転流回路で減衰させた後に、主接点を開極して、電流を遮断した。また、過電流は、ホール素子を利用した電流検出回路により、リレーの制御回路を切ることにより、転流回路の接点を開極した後に、主接点で遮断した。

2. 成果の概要

 転流回路は、転流接点と並列に接続したコンデンサと抵抗(4 kW)で構成した。転流接点を開極し始めると、アーク抵抗の発生により、過電流はコンデンサに吸収される。したがって、転流接点を流れる電流は、急激に減少するので、転流接点の開極と絶縁回復が可能になる。一方、コンデンサへの充電が進むに従って、充電電流(すなわち、主接点を流れる電流)は減少するので、この時点で、主接点を開くことにより、減少した過電流を遮断する。また、コンデンサに蓄えられた電荷は、電流遮断後に、抵抗を通して放電される。
 転流接点と主接点には、定格電圧DC100 V、定格電流DC 25 Aの水素入りリレー(動作時間30 ms、復帰時間11 ms程度)の接点を使用した。この接点のアーク継続時間は、電圧DC 150 V、電流DC10 Aで0.8 ms程度で、気中接点のアーク継続時間(8 ms程度)より短い。転流接点は、電流検出回路により過電流が流れてから15 ms程度後に、開極する。主接点は、転流接点の開極より、約10 ms遅れて開極するように設定した。このリレーは、電圧DC 150 Vで、電流200 Aを5 ms程度通電した後の開極動作ができる。
 コンデンサ容量が大きいほど、転流接点のアーク継続時間は短い。例えば、電圧DC150 Vの場合、コンデンサ容量350 mFで電流DC120 A以下、1,350 mFで電流DC 200 A以下では、ア−クはほとんど発生しない。

3. まとめ

 水素ガス入り小型リレーの接点(定格電圧DC 100 V、定格電流DC 25 A)に、コンデンサと抵抗を並列接続した転流回路に主接点を直列接続して、接点回路を構成した。電流検出回路により、リレーの制御回路を切ることにより過電流を遮断した。
 この方式で、直流電圧150 V、電流200 Aを抵抗負荷に5 ms程度流した後に、25 ms程度で、リレー動作の異常無しに電流遮断することができた。  

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

無人ヘリコプタの姿勢制御技術の研究

(新潟大学工学部)三村宣治
(株式会社テクノリンク)本名敦夫・徳吉三樹

1. 研究の概要

 これまでに無人ヘリコプタなどの運動計測を目的として、運動物体の並進・回転それぞれ3自由度(合計6自由度)運動を同時に計測できる6軸加速度センサ(日本、米国特許取得))を開発している。今回、さらに、地磁気ベクトルを計測可能な3軸地磁気センサを組み込み、方位測定も同時に行えるよう改良した。
 この複合センサの応用として、無人ヘリコプタで最も重要なの姿勢・方位制御について検討した。

2. 成果の概要
2.1 新6軸加速度センサについて

 これまでに開発している6軸加速度センサに、高感度で低ドリフトのフラックスゲート型3軸地磁気センサを組み込んだ.試作したセンサシステムは、信号処理演算部も一体に組み込み、大きさ:約120×120×20 mm、重量:約200 gにまとめることができた(ほぼ従来と同等)。
 試作センサについては、ベンチ試験でほぼ目標の性能が得られることを確認した。

2.2 姿勢・方位制御実験について

 上記で試作した地磁気計測機能付き6軸加速度センサを小型の電動無人ヘリコプタに搭載し、制御実験を行った。今回用いた電動ヘリコプタは、ペイロードが数100 gと小さいため、制御用コンピュータと電源は別置きとして実験を行った。
 地表面近傍での地磁気ベクトルは、地表面に対し水平ではなく、約50度の角度を持つため、センサが水平でない場合には補正が必要となる。今回は、6軸加速度センサで計測した姿勢情報を用いて地磁気センサの補正を行った。この、補正した方位情報に基づき無人ヘリコプタの方位制御実験を行った。今回用いた無人ヘリコプタは元々方位制御能力が低いため、若干蛇行する傾向が見られたが、ある程度の方位制御が可能であることを確認した。

3. まとめ

 本研究で提案した地磁気計測機能付き6軸加速度センサを用い、方位および姿勢情報を複合することによる、無人ヘリコプタの姿勢・方位制御手法を提案し、有効性を実験的に確認した。


図1 6軸加速度センサを搭載した無人ヘリコプタ


成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

石炭灰の微量重金属成分の溶出メカニズムに関する研究

(新潟大学工学部)長瀧重義
(財団法人石炭利用総合センター)原 一夫

1. 研究の概要

 産業副産物の有効利用に際して環境への影響を検討することは極めて重要であり、石炭灰を安全に利用するためには、その中に含まれる重金属の溶出メカニズムを解明することが不可欠である。
 本研究は、石炭灰を土木材料として利用する上で問題となる微量重金属の溶出メカニズムを解明することを目的として検討を行った。さらに、我が国で産出する石炭灰は炭種や燃焼条件によってそのキャラクタが広範囲にあり、重金属の含有量や溶出特性も当然ながらその影響を受ける。そのため、種々の石炭灰を入手して検討を行った。

2. 成果の概要

 平成12年度の研究結果から、高い化学活性を持つ石炭灰はクロム(Cr)が溶出しやすい傾向を示すこと、高炉スラグ微粉末の添加は石炭灰硬化体からの六価クロム(Cr(VI))溶出に抑制効果があり、しかも、大きい比表面積を持つ高炉スラグ微粉末ほどCr(VI)溶出抑制能力が優れていることが認められた。そこで平成13年度は3種類の石炭灰を対象とし、原灰の物理化学性状及びCr(VI)溶出量を調べた。また、高炉スラグ微粉末よりも、さらに大きな比表面積を有する材料、天然ゼオライト、活性炭、籾殻灰及び還元性である電気炉還元スラグなども安定材とし、Cr6+溶出抑制効果について調査を行った。なお、試験条件(乾燥条件、振とう抽出時間)による石炭灰からのCr(VI)溶出量の変化についても検討を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。
  1. 石炭灰のガラス化率と化学活性が石炭灰中の重金属イオンの溶出に影響を及ぼす。
  2. 重金属の溶出量が多い石炭灰でも、高炉スラグ微粉末とセメントを併用して添加することにより、石炭灰硬化体からのCr(VI)溶出を有効的に抑制できる。また、ブレーン値の大きい高炉スラグ微粉末の方がCrイオン溶出に対してより高い抑制能力を持っている。
  3. 電気炉還元スラグは、強い還元作用を持つこととCr(VI)との反応によりCa4Al2O6(CrO4)9H2Oを生成することから、Cr(VI)溶出抑制能力が優れている。
  4. 活性炭と天然ゼオライトは石炭灰硬化体からのCr(VI)溶出量を低減させるが、その制効果は電気炉還元スラグと硫酸第一鉄より低い。

3. まとめ

 本研究では、石炭灰からの重金属溶出特性およびその抑制方法について検討を行った。その結果、石炭灰のキャラクタと溶出量の関係、溶出抑制に効果的な材料などが明らかとなった。また、今後の課題として、以下の検討が重要であることがわかった。
  1. Cr(VI)溶出抑制材として効果の大きい電気炉還元スラグが石炭灰硬化体の力学性能や長期溶出性能の安定性に及ぼす影響などについての検討
  2. 石炭灰のガラス化率、化学活性と微量金属イオン溶出の関係及び石炭灰の主成分と微量重金属イオン溶出の関係
  3. 溶出試験方法、特に振とう抽出試験中の振とう抽出時間と溶媒のpHなどが石炭灰中からの微量金属イオン溶出に及ぼす影響
  4. 石炭灰硬化体の養生材齢とその中の微量金属イオン溶出の関係

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

毛髪電磁特性と毛髪の再現性

(新潟大学工学部)太田雅壽
(株式会社ハニエル)杉山保行・田口 修

1. 研究の概要

 毛髪の洗浄および補修に関する製品は多数市販されている。それらの市販品には、素晴らしい効能書がついているが、その効能に関する根拠の証明も極めて困難であるため、根拠は極めて希薄であっても、なかなか反論しにくい状況にある。そこで、これらの状況を打開するために、効能とリスクに関する基礎データを実験的手法により求めることを目的として、本研究では、美容師間で好評のシャンプー・トリートメントを用い、キューテイクルの再生状況を、走査型電子顕微鏡により検討した。

2. 成果の概要

 共同研究先の株式会社ヘイゼルトンプソンで仕様を作成し、美容師間で好評のシャンプー・トリートメント(薬剤A)および美容業界で多用されている類似品(薬剤B)を用いて、キューティクルの再生状況を比較した。また、比較として、目視的に損傷のほとんど無いと思われる健康毛と脱色経験のある損傷毛についても観察した。観察は、側面と毛髪をほぼ直角に切断した断面について行った。
健康毛は、側面観察から、ほぼ均一なキューティクルでコルテックス(毛皮質)が覆われていた。また、断面観察では、ほぼ円形で、キューティクルがコルテックスに密着していることがわかった。さらに、メデュラ(毛髄質)が観察される毛もあった。他方、脱色経験のある損傷毛は、側面観察から、キューティクルがほとんど存在せず、その形も不揃いであることがわかった。また、断面観察では、円形の片方が押しつぶされた形、すなわち耳のような形をしているものが多かった。
薬剤Aで処理された損傷毛は、側面観察から、処理前に存在したキューティクルと再生されたキューティクル状の皮膜でコルテックスが覆われていることがわかった。また、断面観察では、処理前に存在したキューティクルばかりでなく、再生したキューティクル状の皮膜もコルテックスに密着していた。他方、薬剤Bで処理された損傷毛は、側面観察から、処理前に存在したキューティクルと部分的に再生されたキューティクル状の皮膜でコルテックスが覆われている状態で、コルテックスあるいはその変成皮膜が露出していると推察される部分も存在していることがわかる。また、断面観察では、処理前に存在したキューティクルあるいは部分的に再生されたキューティクル状の皮膜とコルテックスとの間に隙間が存在し、それらの皮膜はコルテックスと密着していなかった。
メデュラの観察された毛の断面について、電子線マイクロアナライザにより、元素分析を行なった。その結果、微量成分としてはメデュラには他の部位に比べカルシウムが著しく多く存在し、カリウムもわずかに存在することがわかった。また、メデュラ以外の部位は、窒素が均一に存在するのに対し、カルシウム、イオウ、塩素が不均一に分布していることがわかった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

プリンタ印刷モデルと印刷濃度制御に関する研究

(新潟大学大学院自然科学研究科)石井郁夫
(新潟日本電気株式会社)廣川伸幸

1. 研究の概要

 白黒の2値出力を基本とする電子写真プリンタでは、1ドット毎の多階調画像の表現ができないため、n×nドットを1単位とするディザマトリックスの黒ドットと白ドットの面積比で階調を表現する。しかし、黒ドットが正確に1ドットの領域に印刷されることはなく、ドットゲインと呼ばれるドット領域からの黒トナーのはみ出しが生じる。電子写真方式は帯電によるトナー付着方式であるため、ドットゲインの大きさや形状が周辺のパターンの影響を受けて変化する。そのため、ディザマトリックス中の黒と白のドット数の比では正確な濃度が定まらない。そこで本研究では、ドットゲインの現れ方を正確に計測する方法の開発ならびに正確な濃度階調を表現するためのディザパターン設計法について検討した。

2. 成果の概要
2.1 ドットゲイン計測法の開発

 様々なディザパターンにおけるドットゲインの生じ方を正確に把握するために、印刷した資料を顕微鏡写真で撮影し、画像解析によりディザパターン毎のドットゲインを計測するシステムを開発した。印刷結果はドット毎には区切られていないので、取得画像からドットの境界を推定して区切る必要がある。600 dpiで8×8ドットのディザマトリックスのドットゲインを計測する。隣接するディザブロックの影響も考慮するため、中央に計測対象ディザブロックを配置した20×20ドットの領域を切り出すこととする。その切り出しブロックの周りにマーカ格子線を印刷し、格子線の骨格線を基準にして縦横のドット境界を推定した。画像上で1ドットを約20×20画素に拡大し、黒画素と白画素の数からドット毎の黒面積率を計測することができる。

2.2 印刷濃度制御法の検討

 ディザマトリックスで正確な濃度を表現するには、希望する濃度を正確に表現するディザパターンを知ることが必要である。しかし、ドットゲインは周辺のパターン影響を受けて変化するので、周辺パターン毎に実測する必要がある。対象ドットから2〜3ドット離れた領域までのパターンの影響を受けるが、その範囲のパターンの組合せは膨大な数になるので全パターンの実測は不可能である。そこで、現実的な方法として濃度微調整法を提案する。
 濃度微調整法は、ドット数の異なる正方形や長方形のような比較的単純な黒ドットあるいは白ドットの塊を基準パターンとして何種類か用意し、その濃度レベルを測定しておく。ディザパターン設計時に、目標階調を定めた後、その階調に最も近い基準パターンを選び、基準パターンに少数の黒ドットを追加または削除して目標階調に近づける作業を行う。このとき、同一黒ドット数でも追加または削減するドット位置によって濃度変化量が異なるので、追加または削減する位置と濃度変化量の関係をあらかじめ測定しておくと、目標階調のディザパターン設計を効率良く行うことができる。本年度は、いくつかの基準パターンについて追加または削減するドット位置と濃度変化量の関係を測定し整理した。

3. まとめ

 ディザパターン設計において、試行錯誤的な濃度階調調整の作業の効率化を目標として、ディザパターンの正確な濃度階調を測定するためのドットゲイン計測法を開発した。さらにその計測法を適用して、容易に目的階調のディザパターンを作成できるように、濃度微調整法を検討した。現在、濃度微調整法において、基準パターンに追加または削減するドット位置と濃度変化量の関係を測定し、その規則性を調査中である。今後は、それらのデータを基に、濃度微調整法を完成させる予定である。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

熱転写ヘッドの接触メカニズムの基礎研究

(新潟大学大学院自然科学研究科)新田 勇
(アルプス電気株式会社システム機器事業部)寺尾博年

1. 研究の概要

 熱転写プリンタは、大きく分けて2つのタイプがある。一つは溶融インク転写型であり、もう一つは昇華型である。前者は解像度に優れ、後者は中間色の再現性に優れている。いすれの方法でも、基本的には熱転写ヘッドがインクリボンを紙に押し付けた状態で加熱し、インクを溶融させて、紙にインクを転写させることで印刷を行う。したがって熱転写ヘッドからインクリボンへの効率的な熱の伝達方法を確立することは、熱転写プリンタの省電力化にとってきわめて重要となる。さらに溶融熱転写プリンタでは、熱転写ヘッドの発熱体を最適な位置に設置することは、プリンタの高精細化に直結する問題である。発熱体の最適な位置とは、熱転写ヘッドとインクリボンの接触圧力が最大の位置である。
 本研究の目的は、粘弾性解析により印刷動作中の熱転写ヘッドとインクリボンの接触圧力を解析することである。

2. 成果の概要

 接触要素の構成は、上部から熱転写ヘッド、インクリボン(PETフィルムとインク)、印刷用紙およびプラテンゴムである。印刷用紙は構造が複雑なために解析対象から除いた。熱転写ヘッドは剛体とし、PETフィルムとインクリボンおよびプラテンゴムの粘弾性特性をレオメータで測定した。粘弾性解析のモデルは、3要素マクスウェルモデルとした。熱転写ヘッドの形状と取り付け角度は接触圧力に大きく影響を及ぼすので、これまで経験的に優れた熱転写ヘッドの形状を基に数種類の形状を用意した。印刷動作時における熱転写ヘッドの接触圧力解析を、汎用有限要素解析ソフトMARC(Ver. 7.3)を使用して二次元問題として調べた。
 実際の印刷動作を模して熱転写ヘッドをPET、インク、プラテンゴムに2 kgfの荷重で押し付け、その後摺動させた。この時熱転写ヘッドは剛体とし、表面粗さ計で実際に測定した形状からモデル化して用いた。熱転写ヘッドは反時計方向に3°傾けた状態でPETと接触させた。摺動させる時の速度は、標準の254 mm/s、さらにその1/5倍、1/2倍および2倍の50 mm/s 、127 mm/sおよび508 mm/sとした。 PET、インク、プラテンゴムは縦2.105 mm、横3 mmのメッシュを作成し、上から3 mmの層をPET、2 mmの層をインク、その下2.1 mmをプラテンゴムとした。また、熱転写ヘッドが接触する部分は細かく分割した。比較のために弾性解析も行った。
 粘弾性解析に対して弾性解析の場合熱転写ヘッドの低下量が少なかった。粘弾性解析の接触圧力を見ると、熱転写ヘッドの発熱体前側にも接触している部分が存在することがわかる。発熱体のところでは後側に圧力のピークが存在した。弾性解析ではこの圧力のピークは発熱体の前側に存在する。これらは、粘弾性体上を円柱が純ころがりする場合の圧力分布と同様である。したがって、発熱の最適位置を決定するためには弾性解析ではピークの位置を正確に予測することができず、粘弾性解析を行わなければならないことが分かる。発熱体により加熱されたインクがエッジ部で再加圧(定着)されるが、そのところの圧力は弾性解析よりも圧力の作用範囲が少なくなっていることが分かった。
 摺動速度を変化させたときの熱転写ヘッドの変位はほとんど見られなかった。しかし、接触圧力の速度依存性は確認できた。発熱体部分においては、摺動速度が大きくなるほど接触圧力が高くなり、また、その摺動方向の前側において特に接触圧力が大きくなっている。これらのことは粘弾性特性の影響によるものと考えられる。また、エッジ部においても速度による影響は見られるが、発熱体部とは異なり速度が大きくなるほど接触圧力は小さくなっている。これは、摺動速度が速いために、発熱体部で受けた変形が十分に回復しないためである。
 このような解析を詳細に行った結果、圧力分布の形を決めているのはプラテンゴムで、プラテンゴムが大きく変形することによってインクとPETの過度に高い接触圧力を緩和していることがわかった。

3. まとめ

 本研究では、インクリボンの粘弾性特性を基に熱転写ヘッドに作用する接触圧力を解析した。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

野菜ジュースの成分分画に関する基礎的研究

(新潟大学大学院自然科学研究科)渡辺敦夫
(カゴメ株式会社総合研究所)早川喜郎・住村克暢

1. 研究の概要

 ナノ濾過(NF)膜は逆浸透(RO)膜と限外濾過(UF)膜の中間の分画性能を持つ特有な膜であり、低分子量物質と中分子量物質、イオンと低分子量物質、一価イオンと二価イオンなどナノオーダーの分子の分離が可能である。
 近年、健康志向が高まり野菜不足を解消するために、手軽に栄養を摂取できる野菜ジュースが開発されている。キャロットジュースには糖、有機酸、アミノ酸などの良好な呈味成分のほかに、Cl-、 NO3-などのエグ味を持つ好ましくない成分が比較的多く含まれており、過剰の摂取は健康に弊害をもたらすことも危惧されている。
 本研究では、NF膜により、糖や有機酸などを保持したままCl− 、O3−を除去する際、膜種、操作条件および共存成分の種類や組成の変化により分離性能がどのように影響をうけるか検討した。

2. 成果の概要

 全循環操作および圧力一定濃縮操作におけるJvと塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンおよびシュウ酸イオンのRappの関係を図1に示す。
 単糖、クエン酸、リンゴ酸、ピログルタミン酸、硫酸イオンおよびシュウ酸イオンはJvに依らずほぼ一定の阻止率を示した。これに対して、塩化物イオンおよび硝酸イオンはJvが減少するにつれて阻止率が低下した。
 透過流束一定濃縮操作は、透過流束の変化による阻止率の変化を抑えることができる。この場合、阻止率は組成の変化の影響を主に受ける。透過流束一定濃縮操作を行うと、単糖、クエン酸、リンゴ酸、ピログルタミン酸、硫酸イオン、シュウ酸イオンのRappをほぼ一定に維持できた。操作条件に関わらず、硫酸およびシュウ酸イオンの濃度の和に対する塩化物および硝酸イオンの混合比が小さくなるにつれて阻止率が低下した。これはグルタミン酸ナトリウムと塩化ナトリウムから成る2成分のモデル液と同様の結果であった。これより塩化物および硝酸イオンの阻止率の阻止率は原液中の硫酸およびシュウ酸イオンに対する混合比に影響を受けると考えられる。

3. まとめ

 単糖、クエン酸、硫酸イオン、シュウ酸イオンの阻止率はJv、濃度および組成変化の影響を受けない。リンゴ酸, ピログルタミン酸の阻止率は濃度および組成変化の影響を受けず、Jv変化の影響を受ける。塩化物イオンおよび硝酸イオンの阻止率は濃度および組成変化とJv変化の両方の影響を受ける。

平成13年度、平成14年度)


図1. 全循環操作および濃縮操作におけるイオンのJvとRappの関係


成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13、14年度:研究区分B〕

プラズマディスプレイ用蛍光体の開発

(新潟大学大学院自然科学研究科)戸田健司
(住友化学工業株式会社)宮崎 進

1. 研究の概要

 プラズマディスプレイ(以下PDP)は、次世代ディスプレイの最有力候補である。その原理は、ガス放電からの真空紫外線を利用して蛍光体を励起し、可視光を得るものである。現在のPDPは、蛍光体自身の発光効率が低いために、輝度や色合いの面で問題が生じている。本共同研究では、実用PDP蛍光体材料の開発および評価に実績を持つ民間企業である住友化学工業と結晶化学に関し知識を有しており材料合成に実績を持つ新潟大学の無機工業化学研究室の共同研究により蛍光体の評価、発光機構の解明および新しい材料の探索により、次世代の実用PDP用蛍光体の開発および改良を行った。

2. 成果の概要

 平成13年1月に住友化学工業鰍ノ導入された真空紫外励起発光評価装置により真空紫外励起における励起機構を解明すると共に計算機化学に基づく蛍光体設計指針に関する仮説の検証を、新潟大学グループの結晶学的知見に基づき合成した新規な結晶構造および組成を持つ蛍光体群に対して行った。これらの化合物の高輝度発光に関する結晶化学および計算機化学に基づく機構解明より、発光イオン周辺の配位環境と蛍光特性に関する関連性を明らかにし、新しい真空紫外励起蛍光体開発における設計指針の確立を行うことができた。
 具体的な成果は、下記の通りである。
  1.  真空紫外励起用赤色蛍光体の候補として、ゲルマン酸塩、ガリウム酸塩および珪酸塩系のオリビン型化合物を対象とし、三価のユーロピウムを付活して蛍光特性の評価を行った。ゲルマン酸塩系の化合物は、市販の赤色蛍光体に匹敵する輝度を持ち、新しい真空紫外励起用蛍光体として利用可能である。この高い発光効率は、結晶構造中における発光イオンが低次元に配置されていることによりエネルギー回遊が抑制されているためであることを結晶構造解析から明らかにした。この高輝度蛍光体に関して原料および合成プロセス条件の最適化を行い、既存材料を上回る輝度を持つ材料を安定して合成できるプロセスの確立を行った。
  2.  赤色蛍光体の開発において得られた発光イオンサイトの配列制御という設計指針に基づいて発光イオンのサイト間距離が大きく分離しているスピネル型Mg1-xZnxAl2-yGayO4に二価のマンガンを付活した緑色蛍光体の調査を行った。最適化した組成のMg0.88Zn0.1Mn0.02Al2O4において真空紫外用青色蛍光体であるBAMの4倍にあたる発光輝度が得られた。本材料は、真空紫外線に対し非常に安定な構造を持っており、新しい緑色蛍光体として利用可能であると思われる。本化合物については、計算機化学に基づく蛍光体設計指針に関する仮説の検証を行い、新しい蛍光体開発における設計指針の構築を行った。
  3.  層状蛍光体Mn付活ストロンチウムアルミネート系について ペースト化塗膜形成過程で劣化が大きいことを、結晶構造解析の観点から検討し改善を試みている。また、Sr-Al-B-O:Eu2+系化合物において、出発原料としてAl2O3より低温で反応が可能なAl(OH)3と光学特性に優れ、多様な結晶構造を持つBO3ユニットを導入することで、Sr-Al-B-O:Eu2+系において新しい結晶相の発見に成功した。仕込み比がSr:Al = 1:2で得られた結晶相は二種類であり、900℃の低温でSrAl2B2O7の単一相とEu2+を高濃度付活することで結晶構造が全く異なるCaCO3型化合物の合成に成功した。CaCO3型化合物は、高輝度な青紫色の蛍光を示す。一方、仕込み比がSr:Al = 1:1で得られた生成物はSrAl2O4を含んだ結晶化ガラスであり、黄緑色の発光と長残光を示した。
  4.  PDPでの実用化に際し、発光層となる蛍光体膜の作製技術の確立が重要である。そのため、上述の高輝度蛍光体について蛍光体粒子の大きさや形状を制御するための技術課題についてもフラックス法、前駆体法、水熱合成法等のソフト化学的手法を含めて幅広く検討を行い、発光効率が高く、かつ発光特性が安定である合成プロセスの確立を行った。

3. まとめ

 現在までに、三原色の青、赤および緑色発光の蛍光体において市販品に匹敵する輝度を持つ新しい真空紫外励起用蛍光体の開発に成功した。


成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

精神分裂病の臨床診断薬の開発

(新潟大学脳研究所)那波宏之・齋藤真子
(科学技術振興事業団)川村名子・黒岩由香里

1. 研究の概要

 精神分裂病は近代のストレス社会において、1%もの極めて多くの人が発症する難病である。精神分裂病医療の問題点は、医師の主観に影響されうる心理症候学的診断基準でのみ分類、規定され、生物科学的で客観的な診断基準は今まで存在しなかったということである。申請者らは、DNAアレイといったポストゲノム技術の応用により、精神分裂病の患者脳内で有為に発現変化する遺伝子群(脳病態マーカー)を発見した。これを基盤に本プロジェクトでは精神分裂病の脳病態マーカーを参考に他の末梢血マーカーを同定する計画である。多種類の精神分裂病末梢血マーカーの同定と応用により実用化された精神分裂病の診断薬は、本疾患の亜型診断や新薬評価にも利用できるという極めて重要な意味をもつ。

2. 成果の概要
2.1 精神分裂病の帯状回における遺伝子発現プロファイリング

 これまでに、精神分裂病の死後脳解析は、前頭葉と線条体を完了していて、世界に先駆け数十個に及ぶ精神分裂病マーカー遺伝子を同定している。本プロジェクトでも、この分裂病マーカー遺伝子を更に検索、権利化する目的で、本疾患で異常であるといわれる脳部位(帯状回)の遺伝子発現プロファイリングを6例ずつのサンプルで実施した。その結果、新たに40種類の精神分裂病の脳内RNAマーカーの同定に成功した。

2.2 精神分裂病の血液タンパクマーカーの追加同定

 これまでの末梢血の研究から、精神分裂病は脳内の疾患であるにもかかわらず、末梢血をつかったマーカー分子2つが発見できている。もっと高率で判定できるようにするために、第三、第四の末梢血マーカー分子を精神分裂病患者の血球より同定することを試みた。脳内に比べ各遺伝子のRNA濃度は、高いことが予想されたので、感度はやや低いが検索できる遺伝子数の多いDNAチップを用いて、RNAの遺伝子プロファイリングを約8000の遺伝子に対して実施した。その結果、精神分裂病患者で有意な発現変化を呈した遺伝子が100個以上確認された。

2.3 抗精神病薬の標的遺伝子の同定

 現在、精神分裂病の治療に使われている薬は大別して、定型薬と非定型薬に分類される。上記2つの試験研究で得られたマーカーも、患者が抗精神病薬の治療を受けていた場合、その治療の影響の反映である可能性がある。それを判別するため抗精神病薬の標的遺伝子の同定を試みた。ラットに1年間に渡り、3種類の抗精神病薬を飲ませて、その脳からのRNAでDNAチップによる遺伝子プロファイリングを実施した。結果、非定型薬に特徴的な遺伝子発現プロファイルが観察された。これらのRNAマーカーは、患者の中枢や末梢で見つかった精神分裂病マーカーの是非をとうばかりでなく、今後の治療薬の薬効マーカーとして、新薬の開発や評価に利用できるものである。

3. まとめ

 本プロジェクトでは精神分裂病の患者診断薬の開発を目指すものであるが、この診断技術は、精神分裂病患者での向精神薬の薬効やモデル動物の妥当性を判定・評価できる可能性を秘めている。つまり、人やそのモデル動物での病態を末梢血マーカーは反映しているので、分裂病症状が悪化すればマーカーレベルは異常性が増し、その逆に治療薬で改善すれば通常値になるのである。これらの点で、本プロジェクトは精神分裂病の新薬の有効性を判定し、新薬開発へ導くツールを提供しうる応用可能性の極めて広い計画であった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

DAP kinaseの発現と疾患とに係わる共同研究

(新潟大学脳研究所)高橋 均
(三菱東京製薬株式会社)大上哲也

1. 研究の概要

 神経変性疾患は、特定の神経細胞が選択的に変性ないし死に至る疾患群であり、その多くについては病因・病的過程がいまだよく解っていない。
 一方、脳の発生過程では本来必要とされる数以上の神経細胞が一時的に過剰産出し、それらはその後の発達過程で選択的細胞死 (programmed cell death) を生理的に起こすことが広く知られてきた。近年、このprogrammed cell deathに関連する蛋白として、Death Associated Protein (DAP) Kinaseが同定された。この蛋白は構造的にはこれまで知られていない新規のserine/threonine kinaseであり、calmodulin-dependent protein kinase familyに属する。
 本共同研究は、ヒトの各種神経変性疾患において、このDAP Kinaseが関与しているのか否かを検討することを目的に、ヒト剖検脳組織を用い、免疫組織化学的にDAP Kinaseの発現の解析を試みた。

2. 成果の概要
2.1 対象

  ヒト症例として、脳梗塞14例、アルツハイマー病5例、パーキンソン病などの他の神経変性疾患5例、コントロール5例を用いた。

2.2 方法

 3種類のanti-DAPK抗体を用い、ABC法で染色した。
  • (1) Mse monoclonal anti-DAP K, Transduction Lab (TL): 1:1000.
  • (2) Mse monoclonal anti-DAP K, Sigma (Sigma): 1:100.
  • (3) Goat polyclonal anti-DAP K, Santa Cruz (SC): 1:50.

2.3 結果

(1)Human cases
 複数の症例で免疫反応性には一定の傾向が認められたが、使用した抗体によってその染色態度には相違が認められた。連続切片を用いてまずその違いを提示する。SC抗体では、脳梗塞巣の壊死組織に強い陽性像が観察された。また、壊死組織周囲に浸潤したマクロファージの胞体にも強い陽性像が観察された。周囲の反応性アストロサイトにも陽性像は観察されたが、これはマクロファージと比較し明らかに弱い。一方、TL抗体では、壊死組織及びマクロファージには、極めて弱い反応性しか認められず、逆に反応性アストロサイトの胞体は明らかな陽性像を呈していた。Sigma抗体では、壊死組織、マクロファージ、反応性アストロサイトのいずれにも弱い陽性像が観察されたのみであった。しかしながらこの抗体では、梗塞巣近傍の皮質において神経突起が最も強く標識された。このように3種類の抗体で、主に免疫原性を示す細胞・構造物には違いが認められた。
 SC抗体でも、反応性アストロサイトが標識される程度には症例によって強弱があり、標本によってはマクロファージと同等あるいはむしろ強く標識されて見えるものも認められた。また、SC抗体では病巣周囲の皮質神経細胞胞体にも陽性像が観察される場合もあった。このballooned neuron胞体における陽性像はTL抗体でも観察された。ただし、TL抗体ではballooned neuron以外にその近傍の神経細胞には弱い陽性像を認めるのみ(あるいは陰性)であり、SC抗体の染色態度(強弱)とは必ずしも一致しない。このTL抗体で染めた切片上でも、反応性アストロサイトには強い免疫原性が認められ、その強さはballooned neuronとほぼ同じであった。
 壊死組織を強く標識したSC抗体でも、組織が除去された時期(old stage)はそうした強い反応性はもはや認められなかった。この際、反応性アストロサイトの陽性像は残存していた。この抗体で線条体に小梗塞を起こした症例を染めると、壊死組織近傍の髄鞘に強い陽性像を認めた。その連続切片をTL抗体で染めると、その程度はSC抗体よりはるかに弱いがここでも染まっている髄鞘が観察された。一方、Sigma抗体で標識されるdendritesは皮質全層に観察されるのではなく、むしろ中央から表層(II・II層を中心)に認められた。その際、細線維として観察される構造物に加えneuropilが染まっている場合もあった。
なお、Alzheimer病脳を染めると、TL抗体ではここでも明らかに反応性アストロサイトが標識されたが、SC抗体ではこれらの反応性は弱く周囲のgranularな染まりが認められるのみであった。Alzheimer病における神経原線維変化・老人斑、PSPの神経原線維変化、Parkinson病のLewy小体、MSAのグリア封入体、ALSの脊髄全角細胞・Bunina小体はいずれも標識されなかった。
(2)Rat lesion
 SC抗体では壊死組織に明らかな反応性は観察されなかった。この抗体では壊死組織周囲の神経突起の一部が標識された。この染色態度はhuman caseをSigma抗体で染めた際に観察されたもののそれと良く似ていた。一方、TL抗体では明らかな陽性像は観察されなかった。Sigma抗体では、壊死組織周囲のneuropilに陽性像が観察され、それらはSC抗体が標識するdendritesとは異なりgranularなものであった。
(3)Mse control
 TL抗体では、皮質浅層(I, II, III層)を中心に反応性が認められた。そこでは神経細胞の核が最も強く標識され、またアストロサイトの突起にも陽性像があるものと思われた。Sigma抗体では、皮質ほぼ全層に亘る反応性が認められた。しかしながらここでは、神経細胞の核ではなく、neuropilの微細顆粒状の染まりであった。

3. まとめ

 このように、一方では魅力的に思える染色態度を見せながらも、抗体間での染色性の違い、更には同一の抗体を用いても症例間で一定の像を示さないことが判明した。本研究方法においては、各種脳疾患病態にDAP kinaseの発現が関与しているとする、積極的な結果は得られなかった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

新規精神分裂病モデルの分析・評価

(新潟大学脳研究所)那波宏之
(ウェルファイド株式会社)二村隆史

1. 研究の概要

 当研究室で開発されたEGF精神分裂病モデル動物について、神経化学的解析と組織化学的解析を行い精神分裂病との関連性を評価、考察した。本モデルは、上皮成長因子EGFを生後すぐの未熟な動物に投与することで神経発達を障害させるものである。それにより成長後に精神分裂病関連の認知行動異常を誘発できるモデル系であり、向精神薬が薬効を発揮しうる慢性モデルでもある。本モデルの成因は不明であるので、EGFがグリア細胞の増殖因子であること、また、ドパミン神経の必須神経栄養因子であることに注目してそのメカニズムの解析を進めた。グリア細胞の発達障害はグリアのマーカーであるGFAPの免疫抗体染色、並びにDNA取り込みマーカーであるBrdUの投与染色により実施し、また、ドパミン神経の発達はチロシンハイドロキシラーゼ(TH)の免疫染色と各脳部位でのモノアミン動態を測定することで評価した。

2. 成果の概要

 海馬をふくめEGF投与の終了する生後11日齢において、アストログリアのマーカーたるGFAPの免疫活性の分布、濃度について、コントロール(チトクロームC投与)群と比べ、顕著な違いは見受けられなかった。またグリアの増殖への影響はBrdUの投与と引き続くBrdU染色で組織化学的に分析した。いずれの動物でも海馬や線条体の脳質周辺を中心にBrdUの強い取り込みが見られたが、EGF投与による著しい変化は観察されなかった。次に、THの免疫染色を線条体中心に行った。ウエスタンブロットでは、約1.5倍のTH蛋白量の上昇が見られたものの、その免疫染色では背側、腹側いずれの線条体領域においても顕著なTH繊維の密度上昇、濃度上昇は確認できなかった。最後にドパミンやセロトニンの合成量や代謝量を評価する目的で、それらの物質やその代謝産物量をHPLCにより生後11日齢と生後60日齢において定量した。その結果、生後11日齢では前頭葉、脳幹、いずれの領域でもドパミンとセロトニンとそれらの代謝産物量には変化が無かった。唯一、線条体におけるDOPACがわずかではあるが有意に上昇していた。一方、生後60日齢では、前頭葉、線条体に変化が見られないものの、脳幹においてドパミンとセロトニンの大きな代謝亢進が観察された。

3. まとめ

 EGF投与モデルでは脳幹部でのモノアミン代謝異常が、認知行動変化に重大な寄与をしている可能性が考えられる。実際、EGFやその受容体ErbBのリガンドには、中脳ドパミン神経への栄養因子活性が知られており、脳発達過程における中脳ドパミン神経の過剰発達が認知行動障害に関与している可能性が大きい。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分B〕

マルチスライスCTを用いた胸部領域への臨床応用に関する研究

(新潟大学医学部附属病院)岡本浩一郎・吉村宣彦
(ジーイー横河メディカルシステム株式会社技術開発センター)今井靖浩

1. 研究の概要

 肺血栓塞栓症の診断において、CTの有用性は確立されている。マルチスライスCTの登場により、さらなる空間分解能の向上が得られ、診断能の向上が期待される。
 肺血栓塞栓症をCTにて検索するには、造影剤の投与方法の検討、アーチファクトの低減などが必要とされる。本研究では特に、急速注入された造影剤によるアーチファクトの低減を図ることを目的とする。

2. 成果の概要

 画像再構成アルゴリズム、再構成間隔を変化させることにより、造影剤からのアーチファクトの出現の程度が、視覚的評価にて変化することがわかった。ただし、診断能を向上させるまでにはいたらないと考えられた。

3. まとめ

 本研究により、画像再構成方法を変化させることにより、アーチファクトの低減が期待できることがわかった。

成果報告書のTOP
年報 目次

〔平成13年度:研究区分C〕

骨材製造時に発生する微粉末の有効利用に関する研究

(新潟大学工学部)長瀧重義
(清水建設株式会社)河井 徹

1. 研究の概要

 コンクリートダムの建設工事において骨材製造時に多量の微粉末が発生する。この微粉末は、骨材原材料の5〜15%にも及び、現在は産業廃棄物として扱われている。環境保護の観点からも、これらの微粉末副産物の有効利用が急務である。本研究では、微粉末をダムの内部コンクリートに適用することを目的として、その配合設計方法に関して検討を行った。

2. 成果の概要

 骨材製造時に発生する微粉末を細骨材の一部と置き換えしたコンクリートの配合設計方法を、室内実験にて検討した。
 その結果、スランプから求めた最適細骨材率と振動台式コンシステンシー試験の沈下度から求めた最適細骨材率は一致した。さらに、振動機による締固めの容易さを評価する試験方法であるモルタル上昇試験も行った。本実験の範囲では、スランプ、沈下度およびモルタル上昇時間ともほぼ同一の最適細骨材を示していた。このことから、今後はダムの有スランプコンクリートにおいてスランプ以外の品質試験方法で管理を行うことも一つの方法であることが明らかとなった。
 本研究における配合設計方法の有効性を検証するため、実機プラントによるコンクリートの練混ぜを行い、ワーカブルなコンクリートが得られることが確認された。

3. まとめ

 骨材製造に伴う微粉材料をダムの内部コンクリートに利用することを目的として、微分材料を混入したダムコンクリートの配合設計方法を確立した。さらに、実施工によってその配合設計手法が適切であることを確認した。今後は、 骨材製造時に発生する微粉を用いたダムコンクリートの製造・施工に本研究の成果を利用していく予定である。

次のページへ


 

copyright (c) 1995-2004 新潟大学地域共同研究センター