〔平成10年度:研究区分B〕

イオノン関連化合物の機能構造相関と合成に関する研究

(新潟大学大学院自然科学研究科)萩原久大

(曽田香料株式会社)伊藤信彦

1. 研究の概要

 香料は我々の生活に快適性をもたらすため、古くから重用されてきた。これに加え、香料に含まれる香り以外の機能、例えば抗菌性、抗変異原性、抗癌作用などの生理活性機能が最近見出される様になってきた。精神面の諸症状の緩和に効果を示すアロマコロジー、抗菌作用を示すフィトンチッドはこれらの例の一つであり、機能性香料物質に寄せる期待は大きい。

 香料物質は天然からの採取に限りが有るため、現在合成香料が多用されている。しかし環境中への排出あるいは人体への取り込みのため、その安全性特に生分解性が問題となっている。そのため合成天然香料の需要がますます伸びてゆく状況にある。

 本研究では、ビタミンA関連化合物の一つであるイオノン系合成香料の新規合成法の開発と共に、イオノン関連化合物の構造と香気の相関を分子計算と多変量解析を用いて検討した。

2. 成果の概要

 芳香族イオノン2はウマの代謝物から単離され、特徴的な香気特性を持ち、香料成分として興味が持たれている。

 本研究では、トリフレート1からパラジウム触媒を用いるHeck反応により、芳香族イオノン2の合成を試みた。触媒にPdCl2(PPh3)2、配位子にdppp、塩基に炭酸水素ナトリウムを用いると、置換生成物である芳香族イオノン2が選択的かつ、好収率で得られた。一方、塩基をトリエチルアミンに変えた所、1,4-付加生成物であるジヒドロ体3が選択的に得られた(Scheme 1)。

 この様にして合成した各種誘導体の香気-構造活性相関の研究を行った。本研究では、分子の電子状態の変化に新しく着目した。分子力場計算(MM2)により最適化された安定型立体構造に基づいて半経験的分子軌道計算(MOPAC、AM1)を行い、得られたデータから香気(閾値)の主成分分析、重回帰分析による相関の解析を行った。

 主成分分析では、13種の芳香族イオノン関連化合物とその各々の化合物固有のDHF (Kcal)、HOMOおよびLUMOのエネルギー値、Net Atomic Charge、各原子のLUMOおよびHOMOの係数とどの様な関連にあるかを因子負荷量をスコアープロット化(図式化)し、グループ化することで各々の化合物がどの様な位置関係にあるのかを明らかにした。

 重回帰分析では、13種の芳香族イオノン関連化合物とその各々の化合物が有するDHF (Kcal)、HOMOおよびLUMOのエネルギー値、Net Atomin Charge、各原子のLUMOおよびHOMOの係数と閾値(逆数等)の相関性をコンピューターに自動的に導かせ、その関係を数式化した。

 構造式からみて、2,3,6-位にアルキル基を持つ化合物が閾値の強い事が経験的に予想されたが、上記半経験的分子軌道法計算(MOPAC)で得られた諸データと香気(閾値)の主成分分析、重回帰分析の手法を用いて一定の相関が見いだされた。その結果相関関係を定量化でき、本解析法が構造活性相関解明の一手段となる可能性が示唆された。

3. まとめ

パラジウム錯体を用いた触媒的合成法により、新しい香気特性を持った天然芳香族イオノンおよびその関連化合物の効率的な新しい合成法を見出した。また、半経験的分子軌道法計算により得られた諸データの主成分分析、重回帰分析により、本イオノン系化合物の香気-構造活性相関について一定の相関関係を見出すことが出来た。